2013年8月26日
日本小児循環器学会理事長  安河内 聰

 このたび、特定非営利活動法人 日本小児循環器学会の理事長を拝命いたしました長野県立こども病院循環器小児科の安河内 聰でございます。 パワフルにいろいろな事業を開拓推進された中西敏雄前理事長の後を引き継ぐことになり、身が引き締まる思いです。もとより微力な身ですが、来年創立50周年という節目を迎える歴史ある日本小児循環器学会がさらに発展できるように、全力をあげて努力したいと考えております。

 本学会は、循環器診療に携わる小児科/内科医と心臓外科医が、心臓病を持つこどもや家族のために、多領域専門職の方々と一つのチームとして、お互いの知識と技術を駆使して切磋琢磨し、協働して発展してきた素晴らしい歴史を持つ学会です。 どのメンバーが欠けても、心臓病を持つ患者様に十分な診断と治療を提供することができなかったと思います。また、いくら個々のメンバーの力が優れていても、十分な情報の共有がなくチームとしての連携がなければ決してよい結果を得ることは出来なかったでしょう。この治療チームとしての「協働」と「連携」は、私たちの基本であると思います。

 この「協働」と「連携」を基本として、これからますます日本の小児循環器学が発展するためには、さらに「チャレンジ力」と「創造力」が必要だと思います。未だ治療困難な病気に対する新たな治療法の開発や、解明されていない疾病の原因究明など、今までにない発想の診断や治療方法が、いろいろな世代から自由に提案される学会になれば素晴らしいことであると思いますし、そのような学会になるよう努力することが必要であると思っております。

 取り組むべき課題はたくさんあります。特に以下の項目について少しでも前進できるように皆様と共に進めてゆきたいと考えております。

(1)基礎と臨床の融合

 科学としての小児循環器学の発展のためには、故高尾篤良先生が提唱されていたGEMAPS (Genetics, Embryology, Morphology, Anatomy, Physiology, Surgery )の総合的発展が必要不可欠です。 疾患の遺伝子レベルの発生学的解明からiPS細胞などを利用した再生医療まで基礎と臨床の融合が今後さらに重要になると思います。 基礎的研究と臨床的研究の双方向性の人的交流がさらに活発となるよう学際的な交流を推進する体制作りが必要です。

(2)多施設研究の推進とデータベース構築

 小児循環器学に関連した多くの基礎的、臨床的研究の進歩につながるような疫学や多施設研究、データベース構築など学会としての支援のありかたについて検討していきたいと思います。特にデータベースについては、単に研究の面からばかりではなく、保険診療の実態調査としてのデータも必要です。

(3)教育の充実と人材育成

 小児循環器学の教育と新たな人材育成は、次の世代への引き継ぎも含めて学会の根幹です。 今まで以上に教育セミナーを中心に様々な教育コンテンツや教育方法の開発を積極的に展開したいと考えております。

(4)専門医制度の確立と安定的継続

 あるべき小児循環器専門医の姿について議論が必要です。 2017年には日本専門医制評価・認定機構が中立的な第三者機関を立ち上げ、新たな専門医審査機構制度が構築されます。 私たちの「小児循環器専門医」が名実共に公知された資格として認定されるよう、専門医研修施設でのカリキュラムやプログラムを含めて準備が必要です。 また、この小児循環器専門医が安定して継続できるようにするために、経済的な整備も進める必要があります。

(5)国際化と国際協力

 ここ10年ほど進められてきた海外の学会との連携は、今後も継続が必要です。
若い会員の皆様の積極的な海外学会での参加を推進できるように制度設計を進めたいと考えております。 また、学校心臓検診など世界に例を見ない私たちの制度の紹介を含めて、国際的な医療支援、教育支援をより積極的に進めたいと思います。そのために国の関係機関との連携の可能性についても検討していきたいと考えております。

 このほかにもまだたくさんの解決すべき課題があると思います。
ただ、私たちの原点は「心臓病を持つこどもたちとそのご家族が少しでも幸せな生活が送れるように行動すること」であると思います。 この原点を忘れずに、医療チームとして期待に応えるためには、会員の皆様お一人お一人の率直なご意見とご協力が不可欠です。会員の皆様から少しでも多くのご意見をいただき、できることから始めていきたいと思いますので、どうぞ皆様のご指導とご協力のほどよろしくお願い申し上げます。