I-P-65
心筋症を伴い発症した極長鎖アシルCoA脱水素酵素(VLCAD)欠損症の 2 カ月男児例
石川県立中央病院小児内科
西尾夏人,荒木来太,久保 実

【はじめに】VLCAD欠損症は,ミトコンドリア脂肪酸b酸化が障害される先天性代謝異常症である.臨床病型として,おもに思春期以降に筋症状で発症する骨格筋型,乳児期に発症して高率に心筋症を伴い致命率の高い重症型,乳幼児期に低ケトン性低血糖症で発症する中間型の 3 つに大別されている.欧米では重症型が多いが,わが国では重症型の報告はなかった.【症例】2 カ月,男児.2005年 6 月,在胎37週 2 日,2,470gにて出生.心雑音を認め当院NICUへ搬送,ファロー四徴症と診断.カルテオロール内服にて外来経過観察となっていた.2 カ月時,哺乳不良,活気低下のため外来受診し肝腫大を認め入院.低血糖,代謝性アシドーシス,高アンモニア血症などを伴った.タンデムマスによるアシルカルニチン分析にてC14:1 アシルカルニチンの増加と,著しい遊離カルニチンの低下よりVLCAD欠損症と診断した.AST,ALT,LDH,CPKなどの著明な上昇や,心筋肥厚,心嚢液の高度貯留を伴い心嚢液ドレナージも要するなど治療に難渋したが,現在はMCTミルク,カルニチンの投与などで比較的安定しており,心嚢液貯留はなくなり,心筋肥厚も改善してきている.【まとめ】VLCAD欠損症では長時間の飢餓や感染などのストレス時にブドウ糖代謝からのエネルギー供給が低下し,b酸化系からのエネルギー需要が高まったとき急性発症することが多い.なかでも重症型は心筋症を伴い致命率も高いとされ,乳幼児突然死症候群としてまぎれ込んでいる可能性も指摘されている.心筋障害の原因として,長鎖アシルカルニチンによる直接的な心筋毒性も疑われているが,早期に適切な治療が行われた例では心機能の改善が得られたという報告もあり心筋障害は可逆的なものと考えられている.酵素蛋白量や遺伝子型と重症度の相関が指摘されており,本症例でも皮膚線維芽細胞による酵素活性,酵素蛋白量測定,遺伝子検索などを施行中である.

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