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乳児期に発症したfibrous strandの断裂による急性大動脈弁閉鎖不全の 1 例
北海道大学病院小児科1),循環器外科2)
武田 充人1),村上 智明1),上野 倫彦1),八鍬 聡1),古川 卓朗1),村下 十志文2),橘 剛2)

【背景】乳児期の急性大動脈弁閉鎖不全(AR)は極めてまれである.われわれは 7 カ月で発症した重度の急性ARを経験したので発症機序の考察を含めて報告する.【症例】7 カ月男児.咽頭炎として近医に入院加療されていた.経過中に心雑音に気付かれ,心エコー検査にてARを認めた.弁尖は 3 弁で右冠尖,無冠尖は正常の形態で可動性も良好であったが,左冠尖は心尖部方向へ大きく偏位し,心室中隔方向への大動脈弁逆流が確認された.感染性心内膜炎はDukeの診断基準に満たず,その後の経過からも否定し得た.利尿剤,アンジオテンシン変換酵素阻害剤の導入にもかかわらず左室拡大が急速に進行したため重症の急性ARとして当院に転院,Ross手術を施行した.術後経過は順調である.術中所見および病理所見にて左冠尖に大きなfenestrationを認め,断裂したfibrous strandを確認した.【考察】大動脈弁のfenestrationは胎生期にdistal aortic bulgesが左室内腔へ向かって進展する際に大動脈弁と大動脈壁の間にfibrous tissueを残すことで形成される.このfibrous tissueが弁尖から交連にかけてのstrandを形成し,弁の支持組織となっている場合がある.fenestration自体は隣接する半月弁の閉鎖縁と重なりARとなりにくいが,fibrous strandの断裂が起こると弁尖そのものを支えきれなくなり急性ARを引き起こすと考えられる.成人例ではこのような機序による急性ARの報告が特に高齢者で散見されるが乳児期での報告はない.

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