I-P-1
冠状静脈洞との交通を合併した三心房心(IA)の 1 例
国立病院機構香川小児病院循環器科1),心臓血管外科2)
辻井信之1),太田 明1),寺田一也1),宮城雄一1),江川善康2),川人智久2),菅野幹雄2)

【はじめに】冠静脈洞との交通を合併した三心房心を経験したので報告する.【症例】9 カ月女児.発育良好であったが,活気低下,軽度咳嗽を主訴に当院小児科受診.胸部写真で心拡大を認め,入院となった.入院時採血でCPK 798IU/l,BNP 2,800pg/ml,HANP 957pg/mlと上昇.心エコーで,副腔と真の左房を隔てる異常隔壁を認めた.真の左房は副腔により圧排され,副腔と真の左房に交通口を 2 カ所認め,副腔から真の左房を介して右房に血流が存在するようにみられた.また,高度な肺動静脈径の拡大を認めた.MRIでも同様の所見が得られた.以上よりcor triatriatum(IA),ASD with severe PHと診断し,当院心臓血管外科により準緊急的に根治術施行した.副腔と真の左房との交通口は 1 カ所で,副腔と右房が冠静脈を介して交通しており,ASDは認められなかったため異常隔壁除去および冠静脈と副腔の交通口の閉鎖を行った.術中所見より副腔から真の左房,ASDを介しての血流と思われたものは副腔が冠静脈と交通しており,右房に流れる血流であったと思われる.術後経過は良好であった.【考察】冠静脈洞との交通を合併した三心房心の報告は少なく,その中でも今回のように副腔と交通をもったものは文献上過去に例を見ない.三心房心の発生は,共通肺静脈が肺静脈叢と交通した後,左心房に還流する部分において十分な交通が確保されずに狭窄を伴ったためと考えられるが,肺静脈叢と原腸静脈叢との間の交通が消失する以前に狭窄が認められ,狭窄の程度が強かったため,肺静脈血は原腸静脈叢(本例では静脈洞左角)を介して心臓に還流していたため,本例のような三心房心ができあがったのではないかと考えられる.三心房心の発生についてはさまざまな発生機転が唱えられており,本例は三心房心の発生機転を考えるうえで重要な 1 例であると考えられる.

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