I-P-6
心内修復術を施行した心房中隔欠損を伴ったダウン症候群症例の検討
北海道大学医学部小児科1),循環器外科2)
上野倫彦1),古川卓朗1),山澤弘州1),八鍬 聡1),武田充人1),夷岡徳彦2),橘  剛2)

【背景・目的】ダウン症候群(DS)患者で左右短絡を伴う先天性心疾患を合併すると肺血管閉塞性病変の進行が早いことが知られている.ところが症例によっては新生児期より高肺血管抵抗が持続することもあり,そのため心内修復術(ICR)の至適時期の決定が困難な場合もある.昨年の本会において,当院では大きな心室中隔欠損を有するDS患児は生後より細かな観察を続け肺血流増加のタイミングで手術を考慮する方針としており,それに対する検証を報告した.一方で心房中隔欠損症(ASD)の場合,肺血管抵抗の低下と肺血流量の増加が一致しないこともあり多様な経過をたどることを経験する.今回ASDを伴うDS例を後方視的に検討し,手術時期や術後の注意点について考察した.【対象】2000年以降当院でICRを施行されたASDを伴うDS 8 例.【結果】手術時年齢は2.7 ± 2.4(平均 ± SD)歳で,1 歳前に手術をした 4 例は,心不全症状を伴うか著明な肺高血圧(PH)を認めていた.全例で心臓カテーテル検査を施行した.肺体血流比2.1 ± 0.7(1.3~3.3),肺血管抵抗(Rp)3.3 ± 1.7(1.3~6.3)U・m2,動脈血酸素飽和度(SO2)92.4 ± 3.9(84~96)%であった.手術後は全例当日抜管可能でPH crisisを起こした例はなかった.術後入院期間は15 ± 5 日で,退院前の心臓超音波検査にて推定右室圧は43.1 ± 25.0(25~96)mmHgであった.術前SO2が低い例,およびRpの高い例ほど有意に術後の右室圧が高かった.3 例で10日以上酸素を投与し,うち 1 例(手術:9 カ月時)は在宅酸素療法を約 4 年間継続,現在もベラプロストとボセンタンを内服している.【まとめ】通常ASDでは,幼少時期に心不全症状を認めたり著明なPHを呈する例は少ないが,DS症例ではたびたびみられ,早期手術を行わざるを得ない場合がある.その場合術後もPHが残存する可能性があり内科管理に注意を要する.また,非可逆的な肺血管病変を来さないようにするため症例ごとの適切な手術時期を見極めることが重要である.

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