I-P-50
TCPC術後患者における凝固線溶系異常の検討
大阪市立総合医療センター小児循環器内科1),小児心臓血管外科2)
江原英治1),村上洋介1),小澤有希1),鈴木嗣敏1),前畠慶人2),川平洋一2),西垣恭一2)

【背景】フォンタン型手術の術後合併症として血栓症が注目されている.その機序は明らかでないが,凝固線溶系の異常が報告され,抗凝固療法の必要性が議論されている.しかし,その予防法は確立されていない.【目的】EC-TCPC術後患者における凝固線溶系の異常について調査し,血栓症の予防法について検討すること.【対象と方法】対象は1997年以降当院にてEC-TCPCを行った85例のうち,凝固線溶系の検査を行った30例.年齢平均8.0歳(3.3~18.1),TCPC術後平均5.4年(1.4~11.1).血栓予防は抗血小板薬28例,なし 2 例で,ワーファリン投与例はなかった.検討項目は肝機能(AST,ALT,ChE,d-BIL)凝固線溶系(PT,APTT,fibrinogen(Fbg),FDP,D-dimer,TAT,PIC)凝固阻止因子(AT3,proteinC(PC),proteinS(PS),thrombomodulin(TM))で,PT,APTT,Fbg,D-dimerについては年齢のマッチしたコントロール(N群10例)との比較も行った.【結果】(1)ASTは41.5 ± 9.3IU/l(異常例59%)と高い傾向を示したが,ALT 平均24.9IU/l(0%),ChE 289IU/l(0%),d-BIL 0.2mg/dl(9%)は正常範囲内であった.(2)PT 14.2 ± 0.7秒(異常96%),APTT 34.8 ± 3.9秒(32%)で,N群と比べ優位に延長(p < 0.0001,p = 0.02).D-dimerは0.3 ± 0.28μg/ml(4%)であったがN群より高く(p = 0.01),TAT 3.5 ± 4.3ng/ml(26%),PIC 0.9 ± 0.59μg/ml(27%)も高値であった.Fbg平均264mg/dl(0%),FDP 0.9μg/ml(0%)は正常でN群とも差はなかった.(3)PCは69.8 ± 10.5%(異常22%)と低い傾向を示したが,AT3平均100%(4%),PS 99.2%(0%),TM 17.5U/ml(5%)は正常であった.(4)脳梗塞を起こした 2 例中 1 例ではFDP,D-dimer,TATの上昇やAT3の低下など複数の異常がみられた.【結論】EC-TCPC術後患者では過凝固の状態およびそれに伴う線溶亢進が示唆された.血栓症の予防法については解剖学的要因,凝固線溶系の異常,治療による出血のリスクなどを症例ごとに個別に検討すべきである.

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