I-P-53
Fontan手術後蛋白漏出性胃腸症の危険因子の検討
兵庫県立尼崎病院心臓センター小児循環器科1),心臓血管外科2)
坂東賢二1),坂崎尚徳1),佃 和弥1),藤原慶一2),大谷成裕2),大野暢久2),長門久雄2),清水和輝2),小田基之2),今井健太2),吉澤康祐2)

【背景】蛋白漏出性胃腸症(以下PLE)はFontan手術の重大な合併症であり,その成因の解明や予防対策が望まれる.【目的】Fontan手術後症例のPLE発症の危険因子を検討すること.【方法】当院のFontan手術後症例55例のうち早期死亡を除いた48例を対象とし,後方視的に臨床的特徴,生命予後,術前術後カテデータ,周術期データを臨床記録から調べた.さらに,PLE発症例 6 例(P群)とPLE未発症例42例(N群)の 2 群間を統計学的に比較した.PLEの診断は浮腫,下痢,低蛋白血症を契機に便α1アンチトリプシン,消化管シンチで行った.【結果】心疾患は,単心室(17),三尖弁閉鎖(11),両大血管右室起始(10),肺動脈閉鎖(5)等で,rt-isomerism(8),lt-isomerism(2)が含まれていた.初回のFontan術式は,APC(10),AVC(2),TCPC(36)であった.48例のFontan手術時年齢,術後年数の中央値と範囲は5.9(0.9~36)歳,6.4(0.5~23)年であった.PLEを発症した術後年数は 0~17年で発症時年齢 3~28歳であった.術前PA圧,PAI,PVR,CPB time,Ao cramp time,術後SVC圧,IVC圧,CIは,両群間に有意差はなかったが,PLE発症前のNYHA class 3 以上の頻度(43%vs 7%,p = 0.032)とFontan術後の 2 週以上胸水が遷延した頻度(80%vs 21%,p = 0.017)は,P群がN群より有意に高かった.【考察】PLE発症には,NYHA class 3 以上と術後遷延胸水が関連していた.術後の慢性的なリンパ管の鬱滞や心機能障害などが絡み合って,静脈圧の上昇,リンパ管の拡張,腸間膜動脈血流の低下,腸粘膜細胞障害を来し,PLEを引き起こすという機序が推定される.【結論】PLE発症には,術後の心機能障害,胸水が関連していることから,心機能を保つ周術期管理はもとより,ハイリスク症例に対しては遠隔期も便α1アンチトリプシンのチェックなど注意深い観察が必要と考えられる.

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