I-P-54
Fontan術後の蛋白漏出性胃腸症(PLE)に対するヘパリン療法の長期経過
東京女子医科大学循環器小児科
稲井憲人,稲井 慶,清水美妃子,富松宏文,山村英司,森 善樹,中西敏雄

【はじめに】Fontan術後の遠隔期の問題点の一つとして蛋白漏出性胃腸症(PLE)がある.しかし,いまだその病態生理の詳細は不明で,確実に有効な治療法がないのが現状である.ヘパリン皮下注療法の有効性が報告されているが,その長期効果は不明である.【目的】へパリン長期使用例の経過を検討すること.【症例 1】11歳,男児.診断は単心室症.4 歳でFontan術を施行され,術後 1 年 2 カ月でPLEを発症した.発症後,低蛋白血症の悪化のたびに入院し利尿剤増量,アルブミン・γグロブリン補充およびヘパリン持続点滴で治療してきたが,発症 2 年 2 カ月後よりへパリン皮下注療法を開始した.開始 1 年後よりアルブミン3.4~4.8g/dlと安定し,開始後 2 年 3 カ月で減量中止した.しかし 2 カ月後に感冒を契機にPLEを再燃し,現在もヘパリン治療を継続中である(ヘパリン皮下注療法計 4 年 3 カ月).【症例 2】17歳,男性.診断は多脾症・両大血管右室起始症.12歳でFontan術を施行され,術後 8 カ月でPLEを発症した.発症後,同様に低蛋白血症の悪化のたびに入院し利尿剤増量,アルブミン補充およびヘパリン持続点滴で治療してきたが,発症 1 年10カ月後よりへパリン皮下注療法を開始した.開始後 1 年はアルブミン3.2~4.0g/dlと落ち着いていた.しかし,その後低蛋白血症が悪化したためヘパリン皮下注量を増量し経過をみていたが17歳時に心室細動で死亡した(ヘパリン皮下注療法計 2 年 9 カ月).【症例 3】 7 歳,女児.診断はEbstein’s anomaly・肺動脈閉鎖.2 歳でFontan術を施行され,術後 1 年 4 カ月でPLEを発症した.発症後利尿剤内服などで経過観察していたが,発症 3 年 3 カ月後に低蛋白血症の著明な悪化を認め,ヘパリン皮下注療法を開始した.開始後,アルブミン3.4~4.8g/dlと安定し,治療を継続中である(ヘパリン皮下注療法計 8 カ月).【結論】へパリン皮下注療法は有効なことがあるが,中止には至らない.今後さらに長期的な経過観察が必要である.

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