I-P-60
原発性乳び心膜症の術後遠隔期に陰部リンパ浮腫と乳び胸水を来した 1 例
県立広島病院小児科
木下義久

【はじめに】乳び心膜症は種々の原因により心嚢内に乳び液が貯留するまれな疾患である.われわれは以前,生直後からNoonan症候群が疑われ肺動脈弁狭窄の経過観察中,5 歳時に原発性乳び心膜症と診断され,手術を施行された男児例を報告した.今回術後 8 年が経過し,陰部リンパ浮腫と右乳び胸などの新たなリンパ系の続発症が生じたので報告する.【これまでの経過】1 歳頃から胸部X線上肺門を中心とした網状結節性陰影が持続していたが無症状であった.5 歳時定期受診の歳に心嚢液の貯留に気づかれ原発性乳び心膜症と診断.3 カ月後に胸管結紮および右心膜開窓術を施行した.その後は 1 年に 1 回の定期受診を受けていたが,胸部X線上,肺リンパ管拡張の所見は認められたが,胸水や心嚢液などは認められなかった.術後 8 年(13歳)の定期受診の直前に陰部の腫脹(陰茎包皮と陰嚢)が出現.定期検診の歳に胸部X線で右胸水貯留に気付かれたが心嚢液は貯留していなかった.原因はNoonan症候群に伴うリンパ管の構造および機能異常が疑われた.【現在の治療】思春期になってリンパ灌流が破綻した原因としては,自然経過以外に(1)運動量の増加,(2)食事性(脂肪摂取の増加)などを考えた.根治療法は困難であるため,(1)低脂肪食:リンパ血流量減少,(2)利尿剤:リンパは上大静脈に灌流するため,中心静脈圧を下げる,(3)運動制限:長時間の立位や激しい運動によるリンパ浮腫の予防,(4)リンパマッサージによる局所の浮腫の改善,などの内科的な治療で経過観察を継続している.【最後に】Noonan症候群に伴うリンパ系の異常は約20%に認められると報告されているが,本症のように全身性のリンパ系異常症の報告はない.根治療法が困難なため,その予後は不良であると予想される.

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