I-P-69
Fontan術後の蛋白漏出性胃腸症の 1 剖検例
順天堂大学医学部小児科1),心臓血管外科2),第一病理学3)
佐藤圭子1),秋元かつみ1),大高正雄1),大槻将弘1),高橋 健1),稀代雅彦1),藤井 徹1),清水俊明1),川崎志保理2),八尾隆史3)

【はじめに】Fontan術(F術)後合併症の蛋白漏出性胃腸症(PLE)の発症機序はいまだ明確なものはない.治療としてsteroid,heparinおよびfenestrationが有効なことから,原因として何らかの炎症や中心静脈圧の上昇に起因する腸管静脈,リンパ管のうっ滞などが考えられている.今回,PLE発症から10年経過し死亡した剖検所見から,PLEの病態について検討した.【症例】両大血管右室起始・肺動脈狭窄・心房中隔欠損の20歳男性. 3 歳時Glenn術,6 歳時F術(lateral tunnel)施行.根治術 4 年後にPLE発症.steroid pulse療法にて治療開始し反応良好であったが,その後再発を繰り返したため免疫抑制剤併用steroid療法,tranexamic acid,heparin療法,octreotide療法なども試みたが改善せず,steroid低量内服を継続した.カテーテル検査での中心静脈圧(CVP)は10mmHgで上昇していなかった.20歳時PLEおよび慢性心不全の急性増悪にて死亡.【剖検所見】(1)心臓:心室中隔欠損(VSD)はremote typeで自然閉鎖傾向にあった.このため左室の流出路はほとんど閉鎖しており左室心筋肥厚は著明であった.体血流を担う右室心筋も著明に肥厚し内腔が狭小化していた.両心室肥厚により一回拍出量の低下が予想された.(2)腸管:十二指腸を中心にしたリンパ管の拡張と静脈のうっ血を認めたが,炎症性細胞浸潤は有意ではなく粘膜の萎縮は認めなかった.【まとめ】本症例の病理組織所見からみたPLEの原因は腸管の炎症やCVPの上昇に加え心拍出量低下に伴う慢性的な腸管血流低下が関与していた可能性が示唆された.Remote typeの小さいVSDのF術では本症例のようにVSD自然閉鎖を来す可能性がありPLEの誘因になることも考慮すべきである.

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