I-P-78
僧帽弁粘液腫様変性におけるTGF-βの役割
日本獣医生命科学大学獣医学部獣医内科1),東京女子医科大学循環器小児科2)
大林浩二1),宮川-富田幸子2),富松宏文2),中西敏雄2)

【背景】僧帽弁の粘液腫様変性(myxomatous degeneration)はMarfan症候群(MFS)や僧帽弁逸脱症候群(mitral valve prolapse)で認められ,組織学的にはプロテオグリカンの蓄積やエラスチン,コラーゲンの変性を特徴とする.MFSモデルマウスを用いた解析により,肺や大動脈の異常と同様に僧帽弁変性でもTGF-βシグナルの異常が関与していると考えられているが,TGF-βが弁変性にどのような機序で関与しているのかはいまだ明らかになっていない.そこで,粘液腫様変性弁におけるTGF-βの果たす役割を検討した.【方法】イヌの粘液腫様変性僧帽弁がヒトのモデルになり得るという報告があるため,実験には弁変性を起こしたイヌおよび正常なイヌの僧帽弁を用いた.僧帽弁の組織切片を作製しHEおよびAlcian blue染色などを実施し,変性の有無を組織学的に確認し正常群と変性群とに分けた.免疫染色法でTGF-βや各種因子の発現を 2 群で比較検討した.また,正常僧帽弁の間質細胞を分離培養し,さまざまな薬剤を用いてTGF-βシグナルへの反応性を検討した.【結果】免疫染色では正常弁と比較して変性僧帽弁でのみαSMA,TGF-β3,TGF-β receptor 2,MMP3の発現を認めた.また,培養間質細胞はTGF-β3の添加によりαSMA陽性細胞の増加,プロテオグリカン産生の亢進を認めた.【結論】僧帽弁ではTGF-βシグナルの亢進により弁間質細胞の形質転換が誘導され,プロテオグリカン沈着やMMP3によるエラスチン,コラーゲンの破壊を起こし,粘液腫様変性が引き起こされると推測された.

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