III-D-3
ムコ多糖症 2 型の酵素補充療法の心臓に対する短期効果
東京慈恵会医科大学小児科1),DNA医学研究所遺伝子治療部門2)
藤原優子1),浦島 崇1),安藤達也1),齋藤亮太1),飯島正紀1),大橋十也1,2),井田博幸1),中澤 誠1)

【背景】ムコ多糖症 2 型(MPS2:Hunter症候群)はX連鎖性劣性遺伝性疾患であり,リソゾーム酵素のイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)の欠損により低身長,呼吸器症状,心病変,神経症状などを呈する進行性疾患である.日本での推定患者数は約150人と推測されている.心病変としては,弁膜疾患,心筋症,不整脈,肺高血圧を呈する.根本的な治療として2007年10月に日本でも酵素補充療法(ERT)が承認され,2008年12月の段階で国内では約100例が治療を行っている.【目的】半年以上ERTを開始しているMPS2の心病変の変化を評価することである.【方法】遺伝子組み換えイデュルスルファターゼ(elapraseTM,Genzyme社)を週 1 回0.5mg/kg点滴静注を半年以上行った男性 5 例(ERT開始年齢 3~23歳)を対象とした.開始前(BL),開始後半年ごとに心エコー検査を行い,心筋壁厚,LV mass index(LVMI),弁膜所見,左室駆出率(LVEF)を評価した.【結果】BLでは,全例になんらかの心所見を有していた.心筋壁厚は 4 例で著変がなかった.LVMIは 1 例がHCMの拡張相に移行し減少した.MRはBLで 3 例に認め,経過中に 2 例が軽減した.MSはBLで 1 例に認めたが変化なく,新たに 1 例にERT開始 6 カ月で軽度のMSが出現した.ARはBLで 4 例に認め,1 例がERT開始 6 カ月でmoderateに進行した.ASはBLで 2 例に認めたが進行はなかった.LVEFは 1 例で低下した.1 例は経過中にHCMの拡張相に移行し,呼吸不全のため死亡した.【考案】ERTはMPS2の心病変に対し,ある程度進行を抑制する.特に年少例 2 例では短期的に病変進行はない.LVMIはERTにより14.1%改善すると報告されているが,今回の症例では一定の傾向は認めなかった.【結論】希少疾患のため,本邦での症例の蓄積が必要である.

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