特別講演 
Prospect of pediatric cardiac surgery—50年を振り返って—
川島 康生
国立循環器病センター名誉総長
 1951年,榊原兄弟によって始められた本邦における小児心臓手術は,1957年に曲直部らが行った人工心肺を用いた開心術の開始を経て,その後急速な発展を遂げ,今日ではほぼ全ての先天性心奇形が手術の適応となっている.
 心房中隔欠損や心室中隔欠損のような単純心奇形の手術は,当初から良好な成績が得られたが,Fallot四徴症に代表される複雑心奇形の手術成績は当初は極めて不良で,その手術成績が安定するには10数年を要している.その後は心内膜床欠損症,大血管転位症,総肺静脈還流異常症など数多くの複雑心奇形にも次々と新しい術式が考案され,その中には本邦で開発されたものも少なくない.
 一方手術成績が安定するとともに,遠隔成績が問題とされるようになり,その向上のためにさらなる手術方法の改良が行われ,今日これら複雑心奇形に対する手術の遠隔成績も著しく向上するに至った.さらに解剖学的な心内修復術が必ずしも可能ではない,あるいはそれが甚だしいリスクを伴う疾患に対して開発されたFontan手術についても改良が加えられ,今日TCPC手術として成績も向上し,適応も拡大されている.
 このようにして,もはや新しい手術方法を開拓すべき心奇形はなく,大幅な手術方法改善の余地もないようにも見える.加えて成績向上を目指した施設の集約化が図られた結果,これに関与する心臓外科医の数も減少している.果たして小児心臓外科の時代は終わったのか.
 私には少なからぬ問題がまだ将来に残されていると思われる.その一つは患者の生涯プランを考えた場合,今日の手術方法がベストであるかという疑問である.取り分け成長を期待できない素材を使っての手術については,今日主流となっている幼少期における一期的根治手術に疑問を抱かざるを得ない.今一つは今日年間数万例に行われているFontan型手術の将来である.Failing Fontan,あるいはfailing TCPCとなった場合にいかに対処すべきかという問題である.
 急増するadult congenital heart diseaseの患者に対して医療界がいかに対応するかも問題であり,最後には心奇形の修復によってこれらの患児が生殖年齢に達した場合にさらなる先天性心疾患患者の増加をもたらすのではないかという問題が残されている.
 これらの問題は悉く小児循環器内科医との密接な協力なしには解決し得ない問題であろう.50年の経験を振り返るとともに,これらの問題についての私見を述べたい.


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