モーニングセミナー 
重症心不全に対する心筋再生治療の現状と展望
—Regenerative therapy for failing heart—
澤  芳樹
大阪大学大学院医学系研究科心臓血管外科学教授
 最近,重症臓器不全治療の解決策として新しい再生型治療法の展開が不可欠と考えられる.特に,最近,遺伝治療学や幹細胞学研究が画期的に進歩し,各臓器における遺伝子治療や細胞移植は臓器機能を改善することが報告され,その臨床応用が開始されている.
 われわれは心筋再生として最近自己筋芽細胞シートによる心筋再生に取り組んでいる.広範囲の心筋再生治療法を開発するため,温度感応性培養皿を用いて自己筋芽細胞シートを作成し,心筋症ハムスターの不全心に移植したところ,均一構造をとって生着し,心機能の改善,生存率の向上がみられた.現在,自己骨格筋細胞によるシートの有効性を,ブタ心筋梗塞モデルおよび拡張型心筋症モデルである高速ペーシングによるイヌ心不全モデルを用いた前臨床試験で良好な結果を得たので,倫理委員会の承認を経て,DCMに対する臨床試験を開始し,第 1 例目は補助人工心臓を離脱するほどに,心機能が回復した.本研究は,safety & feasibility studyであって,結果次第で今後さらなる展開も必要と考えている.一方,ungraftableでありながら局所的虚血を有するCABG症例に対しては,その部位への自己骨髄由来CD133陽性細胞による血管新生療法も,今後予定している.
 さらに,より高い治療効果を目指した探求も進められつつあり,自己由来の多分化能細胞として,iPS細胞への期待が高まりつつある.奇形腫等の問題克服のハードルは高いものの,iPS細胞シートは直接電気的につながって心筋拍動を高めることも可能であり,心機能改善効果の最も高い再生治療法となり得ることが期待される.
 今後,代替療法のない小児心不全症例に対しても,再生医療の展開は極めて重要であり,最近,右心不全モデルや肺高血圧モデルに対する自己筋芽細胞シートの効果を検証し,心機能の改善や血管新生および線維化の抑制等が得られつつある.
 このように,小児も含めて重症臓器不全に対し,新たな外科治療戦略として,外科治療や臓器移植,人工臓器とともに,今後,遺伝子や細胞を用いた再生治療が新たな治療法として有効性が証明されていけば,外科領域における臓器不全に対する外科治療体系が確立されると考えている.


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