日本小児循環器学会雑誌 第24巻 第5号 2008年

富山大学医学部小児科1),昭和大学横浜市北部病院循環器センター2),自治医科大学小児科3)
市田 蕗子1),富田 英2),白石裕比湖3)

 2008年 4 月より,日本小児循環器学会専門医制度がスタートした.初めての制度で,理解しがたい部分も多いと思われ,専門医制度をわかりやすく解説し,小児循環器学会専門医制度への会員のご理解を深めることが私どもの役割と思われる.
 本制度における専門医の名称は,小児循環器専門医(以下専門医)である.日本小児循環器学会の性質上,小児科系と外科系を分けた専門医制度が検討されたが,当面は小児科系のみの専門医制度としてスタートした.専門医に認定されるためには,(1) 卒後 8 年以上の研修・修練期間を有し,本学会が認定する修練施設または修練施設群で 5 年間の小児循環器修練を修了していること(ただし,本学会が認定する修練施設または修練施設群における小児科専門医修練については,2 年間に限り小児循環器修練期間に算入できる),(2) 所定の学術研究業績を有すること,(3) 資格認定試験に合格すること,などが必要である(詳細は日本小児循環器学会専門医制度規則を参照).(1) の修練期間の規定のため,専門医制度の発足後 3 年間は専門医の認定試験が実施されない.正式に認定された専門医が不在の間,専門医・修練施設指導責任者・修練施設群代表責任者に替わるものとして,暫定指導医・修練施設暫定指導責任者・修練施設群暫定代表指導責任者を認定することとした.
 2007年 7 月から募集を開始した暫定指導医は,2008年 4 月 1 日付で,406名が認定され,日本小児循環器学会のホームページ上で公表された.修練施設に関しては,申請総数 53施設で,3 施設は施設群へ移動し,最終的には50施設が認定された.また,修練施設群に関しては,申請総数34施設群全施設群が認定され,認定証が送付された.今回申請のあった施設群内各修練施設のうち,10施設は小児循環器関連の年間入院数がおおむね50例以上である施設基準を満たさないため,今回は見送りとなり書面で連絡した.今後,入院患者数の増加に伴い,再度申請は可能である.修練施設群は,2 施設あるいは 3 施設による構成がほとんどを占め,おのおの,20施設群,9 施設群であった.例外的に,5 施設群では,4 施設以上多数の施設で構成されていた.修練施設群を構成する施設は,原則的に同一都道府県内であることが条件であるが,互いに接する都道府県にまたがる修練施設群も認められている.今回認定された修練施設群のうちにも,同一県内では修練施設の条件を満たす施設がなく,隣接の県同士で修練施設群を形成した地域もある.結果的には,地図上で全国の修練施設あるいは修練施設群の分布を確認すると,1 県を除くすべての都道府県に修練施設あるいは群が存在し,理想的な結果となった.全国の修練施設・施設群も,ホームページ上で公表されている.残る 1 県に関しても,今年度の応募へ申請していただくようにすでに依頼している.また,修練施設・施設群と指導責任者は,5 年ごとの更新が必要である.
 3 年後(2011年)からは,専門医試験が開始される.暫定指導医が専門医となるためには,暫定指導医として 3 年経過した後に,この専門医試験に合格する必要がある.暫定制度は 7 年間適応され,2015年 3 月末日をもって廃止となるが,専門医試験に合格していない暫定指導医は 5 年後に 1 度だけ更新が認められている.資格更新のための手引きはホームページ上で公表され,研修記録簿もすでに暫定指導医へ配布されている.一方,専門医となった場合にも 5 年に 1 度,更新が必要となる.暫定指導医の募集は,暫定指導医の数や地域的な分布が,暫定制度を維持するために必要と考えられる状態に達するまで継続される予定である.
 専門医制度の準備段階で,わが国における小児循環器専門医の適正数は,およそ500名と推定された.これは,わが国における先天性心疾患が,成人を含め累積数が40万~50万人と推定されること,さらに川崎病の冠動脈後遺症を有する患者数が数万人,学校心臓検診で精査や継続的医療を要する学童・生徒が 1~2%いることを考え合わせた数値である.川崎病の患者数が多いこと,また,わが国独自のシステムである学校心臓検診があることは,わが国の小児循環器専門医を,欧米とはやや異なる性格にしている.欧米のように,小児循環器専門センターで活躍する小児循環器医以外にも,わが国では,地域で学校心臓検診にかかわる存在が必須であり,社会から望まれている小児循環器医のもう一つの姿である.そのため,欧米の小児循環器専門医の数よりも多くの専門医数が必要であり,小児循環器の専門施設を離れ,一般小児科として勤務あるいは開業しておられる先生にもぜひご協力いただかなければ,わが国における小児循環器専門医制度は成り立たない.
 修練施設・施設群,暫定指導医の認定が順調に進み,形式はかなり整いつつあるが,最も重要な点は各修練施設における修練内容である.各修練施設における修練プログラムは申請時に提出されているが,これを補足する形で,学術委員会では年 2 回のprimary courseとadvanced courseの教育セミナーを設けており,専門医を目指す若い先生は,ぜひ参加してほしいものである.第 1 回のprimary courseは,2008年 5 月10,11日に開催され,67名の参加があり,大きな反響があった.また,本年度の日本小児循環器学会総会・学術集会からは,各セッションのはじめにstate of the artを設け,これまでの「若手医師のための教育セミナー」とともに,充実した教育内容になっており,ぜひ参加してほしい.また,専門医試験に向けて,米国の専門医試験の内容を参考に 2 年間を費やして作成した専門医認定試験アウトラインと修練目標がホームページ上で公表されている.今後も,年余を経て完成していくものであり,ぜひご意見をいただきたい.
 専門医制度は走り出したばかりであり,学会員の協力なくしては推し進めていくことはできない.今後も忌憚のないご意見をいただき,反映していけるような透明な制度を確立し,国民の信頼に応えられるような小児循環器専門医の育成を目指していきたい.