日本小児循環器学会雑誌 第25巻 第6号 2009年

東京女子医科大学循環器小児科
中西 敏雄

 政権が民主党に変わり,われわれの生活に今のところ目立った変化はありませんが,今後おおいに期待されるところです.特に小児の高度医療,まさにわれわれが行っている小児循環器領域の充実に財源を充てていただきたいです.新政権が次世代を担う子ども達を大切にするならば,小児科領域に財源を充てることは当然だと思います.小児の高度医療に大幅に予算をつけることをお願いしたい.
 平成21年 8 月から,日本小児循環器学会の理事も代わり,私が新しく理事長を務めさせていただいています.新しい理事会も,今のところ目立った変化はないようにみえるかもしれませんが,今後徐々に変化していくと思っています.
 本学会の発展の在り方を考えたとき,いくつかの課題があります.一つは,小児循環器疾患の治療成績のさらなる向上です.先天性心疾患の治療成績は向上してきたとはいえ,いまだ治療困難な疾患があります.循環器小児科医と心臓血管外科医が力を合わせ,治療成績の向上に努める必要がありますが,なんといってもその原動力は,人材と財源です.今はその両方が不足しているのが現状です.
 次に,先天性心疾患は,成人の冠動脈疾患などに比べると患者数が少ないので,管理法や治療法について多数例での統計的な分析が難しい傾向があります.わが国の多施設共同研究を活発化し,全国のデータ集計をし,いろいろな治療法の比較や未解決の課題を明らかにする学問としての小児循環器学の発展に努める必要があります.
 また,循環器小児科や心臓外科領域の基礎研究の発展をさらに活性化し,それを新しい診断法や治療法に展開することも重要です.そのためには,学会をあげて新しい基礎研究を奨励し,若い研究者が循環器小児科や心臓血管外科の基礎研究に魅力を感じるようにしたいと思います.若い研究者の海外留学も学会として支援しますが,国内で基礎研究できる環境作りも学会として支援できればと思います.学術委員会などにどんどん提案してください.できるだけの支援をいたします.
 わが国の小児循環器学のレベルは世界のトップレベルですが,本学会が持っている情報を世界に向けて発信する必要があります.欧米に向けてのみならず,特にアジアへ向けての情報発信の中心となる必要があります.これまでも本学会はアジアや欧米の学会との交流を行ってきましたが,さらに情報交換や交流を発展させていきたいと思います.
 われわれの使命は患者にとって真に有益な医療を提供することです.そのためにはわれわれが提供する医療の質や安全性を検証する必要があります.わが国のあるべき循環器小児科医と心臓外科医の具体的な姿を学会が示さねばならないと思います.「循環器小児科専門医」のトレーニング内容,レベルの検証などは,この数年の学会の大きな課題です.
 2009年には臓器移植法が改正になり,2010年からは15歳未満の小児からも臓器提供が可能となりました.世界の趨勢や改正臓器移植法施行とともに,海外渡航移植は困難になっていくと予想されます.わが国で小児脳死移植を推進していかないと,今まで海外渡航移植で助かっていた命も救えなくなる可能性があります.小児脳死移植を推進していくことは本学会の大きな使命であると思います.
 最後に,本学会がさらに社会に貢献し,発展していくためには,学会員の労働環境や医療環境の向上がぜひとも必要です.医師不足からくる過重労働を改善し,医療の質の低下を避けなければなりません.女性医師の本学会への貢献を推進する運動も必要と思われます.社会の理解と信頼を得て,医師の待遇改善がなされていくよう努力したいと思います.
 民主党衆議院議員の任期は 4 年ですが,日本小児循環器学会理事の任期は 2 年です.この 2 年の任期中,「さらにアグレッシブに,さらに協調を」をモットーに,全力を傾けて努力する所存でおります.
 以上はホームページのご挨拶にも載せたものです.重複しますが,ご挨拶をかねて,巻頭の言葉とさせていただきます.