日本小児循環器学会雑誌  第25巻 第6号(821-826) 2009年

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著者

福島 紘子1),堀米 仁志1),平松 祐司2),徳永 千穂2)金子 佳永2),高橋 実穂1),西村 章3),松本 直通3)須磨崎 亮1)

所属

筑波大学大学院人間総合科学研究科・疾患制御医学専攻・小児内科学1),心臓血管外科学2),横浜市立大学大学院医学研究科・環境分子医科学3)

要旨

小児期から著明な大動脈基部拡張が進行し,10歳時にBentall手術を施行したLoeys-Dietz症候群(LDS)の女児例を報告する.児は 3 カ月時に先天外反足などから奇形症候群を疑われて当院を紹介され,心エコースクリーニングで大動脈基部拡張を指摘された.くも状指,口蓋垂裂,眼間開離などの表現型を認めたが,漏斗胸,水晶体脱臼やリストサインを伴わなかったことからMarfan症候群の一亜型として経過観察されていた.2005年にLoeysおよびDietzらにより,Marfan症候群類似の表現型を呈し,TGFβ受容体(transforming growth factor β receptor)遺伝子に変異のある一群の疾患がLDSとして報告されたため,本症例も 8 歳時に遺伝子検査を施行したところTGFBR2の変異が認められた.その後,大動脈基部の拡張速度は 5mm/年以上となり,10歳時には44mmに達したため,大動脈解離の危険が高いと判断し,Bentall手術を施行した.小児期に大動脈基部置換術を施行したLDSは文献上16例報告され,年齢は0.5歳~14歳(中央値7.5歳),手術時大動脈基部径は27.4mm~52mm(中央値36mm)で術後経過は概ね良好だが,2 例の死亡報告もみられた.LDSはMarfan症候群と類似の症状を呈するが,小児期に大動脈解離を起こす可能性があるため,小児科医が認識することが望まれる疾患と考えられる.

平成21年4月13日受付
平成21年9月4日受理

キーワード

aortic aneurysm,Bentall procedure,child,Loeys-Dietz syndrome,Marfan syndrome,TGF β receptor

別冊請求先

〒305-8577 茨城県つくば市天王台 1-1-1 筑波大学大学院人間総合科学研究科・疾患制御医学専攻・小児内科学 福島 紘子