日本小児循環器学会雑誌  第26巻 第5号(384-391) 2010年

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著者

野間 美緒1,3),松崎 寛二1,4),平松 祐司2),榊原 謙2)

所属

Gorman Cardiovascular Research Group, University of Pennsylvania School of Medicine1),筑波大学大学院人間総合科学研究科心臓血管外科学2),岐阜県総合医療センター小児心臓血管外科3),筑波メディカルセンター病院心臓血管外科4)

要旨

背景:成人において心筋梗塞は心筋組織に炎症を引き起こし瘢痕を形成し,その結果心室拡大や心機能低下を招く.一方胎児では皮膚や腱の創傷において,炎症反応が軽微で瘢痕形成を伴わない再生的治癒が起こることが報告されている.胎児においては心筋梗塞後の心筋にも再生的治癒がおこり心機能を温存するのではないかと考えた.
方法:成獣羊と胎生初期の胎児羊を用いて,左室前壁から心尖部にかけての領域に心筋梗塞を作成し,心機能をエコーにて定量的に評価した.梗塞部心筋の炎症や瘢痕形成,細胞の増殖,アポトーシスについて免疫組織化学的法を用いて評価した.
結果:成獣羊では心筋梗塞作成4週間後の左室駆出率EFは低下しており梗塞部領域は拡大していたが,胎児羊ではEFの低下を認めず,壁運動の異常は消失していた.胎児羊の心筋梗塞部組織では炎症細胞の浸潤をほとんど認めず,瘢痕を形成せずに治癒していた.また同部位に心筋細胞の増殖を認めた.
結論:胎児羊の心筋梗塞に対する反応は成人とは大きく異なり,極微な炎症,瘢痕形成の欠落,心筋細胞の増殖,そしてそれに伴う心機能の回復を認めた.

平成22年1月20日受付
平成22年6月22日受理

キーワード

myocardial infarction,inflammation,scar formation,apoptosis,heart failure

別冊請求先

〒305-0817 つくば市研究学園A53街区1 筑波大学大学院人間総合科学研究科心臓血管外科学 野間 美緒