日本小児循環器学会雑誌  第26巻 第5号(407-412) 2010年

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著者

畠井 芳穂1),嘉川 忠博2),雨宮 伸3)

所属

榊原記念クリニック小児科1),榊原記念病院小児科2),埼玉医科大学小児科3)

要旨

背景:低酸素濃度ガス吸入療法は,先天性心疾患の治療手段に臨床応用されているが,低酸素により神経発達障害をきたすかどうかの知見は少ない.
方法:低酸素濃度ガス吸入療法の中枢神経系への影響を明らかにするため,本研究を施行した.対象は新生児・乳児期において,低酸素濃度ガス吸入療法を施行した急性期5例(日齢6~19,平均10),中期遠隔期23例(4~36カ月,平均15)である.吸入酸素濃度を21%から15%程度まで低下させ,急性期はバイタルサイン,血液ガス,局所脳酸素飽和度を測定した.更に,脳波,頭部画像検査を施行した.遠隔期は身体発育(体重,カウプ指数,頭囲),神経学的異常所見,発達指数(津守式乳幼児発達質問紙)を調査した.
結果:急性期5例では,心拍数低下(141±13 min–1から137±15 min–1),平均血圧上昇(44±9 mmHgから47±12 mmHg),動脈血酸素分圧低下(67±19 mmHgから48±16 mmHg)したが有意差はなかった.局所脳酸素飽和度は吸入酸素濃度20~18%程度では上昇したが,16%以下では低下した.脳波は13~14%酸素下でも異常所見はなかった.頭部画像検査では脳出血や脳梗塞は認めなかった.中期遠隔期での身体発育は良好であった(平均体重–0.98 SD,平均カウプ指数16.6,平均頭囲–0.77 SD).2例に筋緊張低下を1例に一過性のけいれんを認めた.発達指数は低酸素濃度ガス吸入療法群94±26,対照群98±24であり有意差は認めなかった(p=0.7).
結論:低酸素濃度ガス吸入療法は,発育および神経発達への影響は少ない治療法と考えられる.

平成22年4月5日受付
平成22年8月24日受理

キーワード

hypoxia inhalation therapy,central nervous system,complication,neuro-development,near infrared spectroscopy

別冊請求先

〒163-0801 東京都新宿区西新宿2-4-1 新宿NSビル4F 榊原記念クリニック小児科 畠井 芳穂