日本小児循環器学会雑誌 第27巻 第3号 2011年

昭和大学横浜市北部病院循環器センター
富田 英

 日本小児循環器学会専門医認定試験(以下,専門医試験)アウトラインが改訂された.このアウトラインは米国小児科学会の小児循環器専門医認定試験アウトラインを参考にし,日本小児循環器学会専門医制度(以下,本制度)の施行にあたって2007年に制定された.第1回の専門医試験が終了し,合格者に第2回専門医試験の問題作成を依頼するに先立って改訂されたものである.
 詳細は日本小児循環器学会web site (https://center6.umin.ac.jp/oasis/pccs/member/specialist/download/outline.pdf) をご参照いただきたいが,その要点は総論,各論ともにその項目の文言を実情に即して修正した点,各論の項目に学校心臓検診,カテーテル治療を独立させた点,ここ数年の間に一般化してきた治療法や検査法に関して新たな項目の追加や不要な項目を削除した点,各項目のランク(Aは必須項目で小児循環器の基本:自ら経験し,その知識を十分に活用し,主治医として判断できる,Bは努力項目でできるだけ習得すべき項目:できるだけ自ら経験し,現象を分析や判断できる)に関して見直しを行った点である.
 いまだ暫定制度からの移行時期で,テキストブックや問題集を持たない本制度にあっては,現状では,専門医が習得すべき知識・技能や専門医試験に関する唯一の目安なので,出題を担当される諸先生はもとより,受験を目指す諸先生にはぜひ,一度目を通していただきたい.本アウトラインは,小児循環器病学に関する普遍性が高い,公理ともいうべき事項を網羅するばかりではなく,時代が求める専門医として習熟すべき先進的な分野をもカバーしたものでなければならず,今後もカリキュラム委員会・専門医制度委員会で逐次up-dateしていく予定である.専門医となられた先生からもご意見をいただき,本制度が目指すべき専門医像に関して議論を深めることができれば幸いである.
 さて,第1回の専門医試験が終わったばかりではあるが,本制度の将来像に関して考えてみた.成人の循環器領域では日本インターベンション治療学会が循環器専門医とは独立して認定医・専門医制度を運営しており,また日本不整脈学会は循環器専門医の資格を有していることを条件に不整脈専門医制度を導入している.いずれもいわば三階建て部分に相当する専門医制度といえる.日本小児循環器学会には9つの分科会があるが,これらのうち臨床研究を主体としたいくつかは,将来的にはその専門性を何らかの形でcertificateするシステムが必要になっていくのではないかと考えられる.試験の実施,申請の受け付け・認定など,専門医制度の管理運用には思いのほかコストがかかり,一定程度の専門医数がなければ,制度自体が経済的に成り立たない.一方で,コストがかからない簡略化された制度では社会の要請に応えることは困難である.本制度は,社会の要請に応え得る厳密に運用された制度としては,経済的に成り立ち得る最小規模ギリギリのところにあるものと推測され,日本小児循環器学会の分科会が独自で専門医制度を管理・運用することは,現状ではその規模から困難と考えられる.日本超音波医学会の指導医は領域ごとに認定され,また,心臓血管外科専門医認定機構の専門医制度における専門医試験では領域ごとに選択問題がある.今しばらくは本制度の成熟を待たなければならないが,先進的な診断・治療から学校心臓検診をはじめとした地域レベルの小児循環器予防医学までの幅広い領域をカバーする本制度にあっては,基本の小児循環器専門医に加えて,標榜する専門領域を「小児循環器専門医(不整脈)」のようにかっこ付きで表示して,専門性が高い領域のcertificationとするような枠組みがあってもよいのではないかと考えている.かっこ付きで表示することを許可する場合のアウトライン,これに基づくより専門性の高い問題の選択制,専門問題を選択した場合の一定の正答率などの検討が必要なのはいうまでもない.
 “先天性ないし発達期発症の循環器疾患を有する胎児,小児,および成人への医学・医療を発展・向上させ,さらに児童生徒に対する的確な心臓検診と適切な指導でもって,社会の福祉に貢献する”,“優れた医学知識と高度の医療技術を備えた小児循環器の専門医を育成する”ための本制度の在り方に関して,制度の運用と並行して議論を継続すべきものと考える.