日本小児循環器学会雑誌  第27巻 第3号(121-131) 2011年

著者

坂崎 尚徳1),丹羽公一郎2),上野 倫彦3),高室 基樹4),中西 敏雄5),賀藤  均6),松島 正気7),小島奈美子8),市田 蕗子9),小垣 滋豊10),城戸佐知子11),新垣 義夫12),赤木 禎治13),城尾 邦隆14),須田 憲治15),中澤  誠16),佐地  勉17)

兵庫県立尼崎病院小児循環器内科1),千葉県循環器病センター成人先天性心疾患診療部2),北海道大学医学部小児科3),札幌医科大学小児科4),東京女子医科大学循環器小児科5),国立成育医療研究センター小児循環器科6),社会保険中京病院小児循環器科7),KKR名城病院小児循環器科8),富山大学小児科9),大阪大学医学部小児科10),兵庫県立こども病院循環器科11),倉敷中央病院小児科12),岡山大学循環器疾患治療部13),九州厚生年金病院小児科14),久留米大学医学部小児科15),財団法人脳神経疾患研究所附属南東北病院小児・生涯心臓疾患研究所16),東邦大学医学部小児科17)

要旨

背景:Eisenmenger症候群(ES)に対する肺血管拡張療法が普及しつつあるが,本邦におけるES成人例の臨床像,薬物治療の現状とその予後に与える影響ついての情報は乏しい.
方法:1998年から2009年の間に15施設を受診したES136例(女性83例,最終受診時年齢中央値32歳,16~68歳)を対象とし,16歳以降の臨床経過および臨床検査データを検討した.
結果:最終受診時NYHA class >= Ⅲの症例は51例(38%)で,抗心不全療法が85例に,抗不整脈療法が26例に,肺血管拡張療法が60例に行われていた.中央値10年(0~28年)の経過観察期間中に17例が死亡し,8例が突然死した.40年,50年実測生存率は,それぞれ87%,76%で,失神既往例の40年生存率は,既往のない例より有意に低かった.Propensity score matchingにより調整された肺血管拡張療法群の死亡率は,肺血管拡張療法未施行群より有意に低かった(hazard ratio 0.18,96% C.I. 0.01 – 0.94,p = 0.0399).死亡の独立した危険因子は,最終受診時のBW <= 45 kg, PLc <= 12.9 × 104/μlであった.
結論:本研究において,本邦のES成人例の現況が明らかになり,肺血管拡張療法が生命予後を改善することが示唆された.

2010年10月4日受付
2011年2月8日受理

キーワード

Eisenmenger’s syndrome, mortality, morbidity, predictive factor, medical treatment

別刷請求先

〒660-0828 兵庫県尼崎市東大物1-1-1
兵庫県立尼崎病院小児循環器内科 坂崎 尚徳