D-III-4
食道裂孔ヘルニアを合併した無脾症候群の問題点-肺静脈閉塞発症の危険性について-
大阪府立母子保健総合医療センター心臓血管外科1),大阪府立母子保健総合医療センター小児循環器科2)
前畠慶人1),岸本英文1),川田博昭1),三浦拓也1),秦 雅寿1),中島 徹2),萱谷 太2),稲村 昇2),石井 円2),角由紀子2)

我々はこれまでに無脾症候群における肺静脈閉塞(PVO)の原因として心外型総肺静脈還流異常(TAPVC)の合併以外に,脊柱,下行大動脈などによる肺静脈(PV)の外部からの圧迫があることを報告してきた.一方,食道裂孔ヘルニアの合併も胃がPVを圧迫する可能性があると考え,食道裂孔ヘルニアを合併した無脾症候群にPVOが生じているか検討した.【対象と方法】食道裂孔ヘルニアを合併した無脾症候群 8 例(全て単心房,単心室,共通房室弁)を対象とし,CT検査,心エコー検査,剖検と臨床症状からヘルニアのPVOへの関与を検討した.【結果】TAPVC(3)を合併した 1 例はCT未施行の初期の症例で,啼泣時に無酸素発作様のチアノーゼ増強があり,心エコー検査で垂直静脈での狭窄パターンからPVOの進行を認めた.生後 7 カ月のTAPVC修復術直前に失ったが,剖検にて食道裂孔ヘルニアを認め,裂孔を垂直静脈が通過して門脈に合流していた.他の 7 例にはCT検査を施行し,全例に胃と左PV下葉枝の近接所見を認めた.このうちTAPVC(1b)を合併した 1 例は,生後 1 カ月に行ったCT検査で気管分岐部直下までのヘルニアと,正中に位置した胃体による左右PVの圧迫像を認めた.TAPVC修復術を予定しているが,ヘルニア解除術が将来必要だと考えている.他の 6 例はCTでは胃による明らかなPV圧迫所見を認めなかったが,2 例では経口摂取後の経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)の低下症状を認めた.このうち 1 例では,哺乳直後に頻回のSpO2低下を認め,滑脱した胃が経口摂取後に膨満することにより左PVOをきたしていることが強く疑われたため,生後 5 カ月に食道-横隔膜固定術,胃前方固定術,胃瘻造設術によるヘルニア解除を施行した.術後は,CT検査上胃と左PV下葉枝の近接所見はなく,哺乳後のSpO2低下症状は消失した.【まとめ】食道裂孔ヘルニアを合併する無脾症候群 8 例中 4 例では滑脱した胃の圧迫によるPVOが疑われ,1 例でヘルニア解除術によりPVOが消失した.

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