D-IV-1
KCNJ2遺伝子異常を認めたAndersen症候群-内向き整流カリウムチャネル(Kir2.1)異常による心室性不整脈
弘前大学医学部小児科
高橋 徹,佐藤 工,大谷勝記,佐藤澄人,市瀬広太,江渡修司,佐藤あきら,米坂 勧

【緒言】心室性不整脈,周期性四肢麻痺(PP),外表奇形を特徴とするAndersen症候群は心筋と骨格筋におけるイオンチャネル病が想定されていたが,その異常チャネルは不明であった.昨年初めて膜二回貫通型の内向き整流KチャネルであるKir2.1をコードするKCNJ2遺伝子の変異がAndersen症候群の原因として報告された(Cell 105: 511).【症例】18歳女性.不整脈やPPの家族歴なし.5 歳時より多源性心室性期外収縮,心室頻拍(TdP)による失神発作とPPによる脱力発作が出現.β遮断剤,メキシレチンの内服で心室頻拍は完全には予防できず失神を繰り返した.外表奇形はなし.14歳時に心室性不整脈の抑制と抗不整脈薬増量に対するバックアップを目的にDDDペースメーカ植え込みとQT延長(QTc = 0.46─0.49)を伴うことからQT短縮と早期後脱分極の抑制を期待してKチャネル開口薬(ニコランジル)の内服を追加した.その後不整脈は減少し,失神発作は消失した.【遺伝子解析】末梢血白血球からDNAを抽出し,Direct Sequence法によりKCNJ2領域の塩基配列を検索し,880番のCからTへの変異を認め,Kir2.1のR218W変異が証明された.【考察】不整脈のイオンチャネル病としてはQT延長症候群(LQTS)とBrugada症候群が代表であるが,Andersen症候群はこれらに次いで遺伝子異常の証明された心室性不整脈である.Kir2.1は静止膜電位と再分極後半の電位形成に重要な役割を果たし,本症例ではKir2.1の機能低下による静止膜電位低下と活動電位持続時間延長が早期後脱分極を誘発し,心室性不整脈を生じたと推察された.Kチャネルの機能低下が原因であることからLQTSと同様にKチャネル開口薬の有効性が期待され,またKir2.1の活性は細胞外K濃度に依存するため低K血症を避けるなど,遺伝子診断により治療・管理に有用な情報が得られる.KCNJ2遺伝子はPPを伴わない心室性不整脈やLQTSの発生にも関与している可能性があり,今後注目すべきと考えられた.

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