A-II-7
実験的肺高血圧症に対するアデノシンの効果・有用性(第 2 報)
国立成育医療センター心臓血管外科1),杏林大学心臓血管外科2)
戸成邦彦1),大岩 博2),本田克彦2),須藤憲一2),関口昭彦1),近田正英1),齋藤 綾1)

【目的】肺高血圧を伴う先天性心疾患の術後に発症する肺高血圧クリーゼの原因のメカニズムは未だ解明されておらず,その治療に難渋することも少なくない.そこで,本邦であまり知られていないアデノシンの薬理作用に着目した.アデノシンは,生体内に存在している物質で,その半減期は10秒以下と非常に短く,体循環には影響を及ぼさないという仮説を立て,動物実験を施行した.【方法】生後約 2 カ月のブタ12例(平均体重10.9kg)を使用し,人工呼吸器のFiO2を1.0の時(C群),0.1の時(H群),FiO2を0.1のままにアデノシンを中心静脈より投与(20-60γ)した時(A群)とし,(1) 平均体血圧(mAP),(2) 平均肺動脈圧(mPAP),(3) 中心静脈圧,(4) 左房圧,(5) 心拍出量を測定し,(6) 肺血管抵抗(Rp),(7) 肺体血管抵抗比(Rp/Rs),(8) 肺体血圧比(Pp/Ps),(9) 心係数(C.I.)を求め比較検討し,危険率 5%以下を有意とした.【結果】H群はC群に比べmPAP(mmHg)は,11.7から26.9,Rp(Wood Unit)は,1.48から4.18,Rp/Rsは,0.10から0.30,Pp/Psは,0.16から0.38と有意に上昇した.次にA群はH群に比べmPAPは,26.9から11.7,Rpは,4.18から1.92,Rp/Rsは,0.30から0.14,Pp/Psは,0.38から0.22と有意に低下した.mAP,CVP,LAP,Rs,C.I.についてはいずれも有意差は認められなかった.【考察】アデノシンは,ブタの実験的急性肺高血圧症に対し,肺動脈収縮期圧を有意に低下させ,肺血管抵抗を有意に減少させた.また,体血圧などの全身に対する影響は,ほとんど認めなかった.今回の結果よりアデノシンは,体血圧・体血管抵抗は低下させず,肺動脈圧・肺血管抵抗を特異的に低下させた.この結果より,将来アデノシンの肺高血圧に対する治療薬として,一酸化窒素吸入量法離脱時の併用療法又は,治療薬として臨床応用できる可能性が示唆された.今後,慢性肺高血圧症モデルに対しての効果・有用性の検討を重ねていきたい.

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