C-V-4
成人ではすでに確立された人工心臓治療:いかに小児へ導入・発展させるか?
東京医科歯科大学生体材料工学研究所1),東京医科歯科大学医歯学総合研究科2)
中村真人1),大内克洋1),高谷節雄1),坂本 徹2)

欧米では,人工心臓での救命,延命,社会復帰の治療効果はすでに実証され,確立された有効な治療手段として積極的に実践されている.人工心臓臨床の世界の流れを概観すると大きく 3 つの流れがある.一つは,より良いデバイスで治療を行おうとの流れである.開発された最新型デバイスが積極的に臨床に導入され,デバイスの性能,手術成績,患者のQOLの向上が問題にされている.2 つ目は,恒久使用デバイスとして人工心臓を用いる流れである.これまで人工心臓は,移植までのブリッジユース,回復までの一時使用が主目的であった.それが,長期,もしくは恒久使用目的のデバイスとしての認識が強まってきた.欧米でもドナー不足,待機期間の延長が問題化してきているからである.昨年 7 月,アメリカで,移植の適応もなく余命 1 カ月と診断された超重症心不全患者に,完全埋め込み型全置換型電機駆動式人工心臓が埋め込まれた.永久使用目的の最新デバイスである.移植適応のない患者や高齢者への永久使用,移植に代わる治療をめざそうとの動きの表れであろう.第 3 の動きは,小児への適応拡大である.昨年,アメリカ人工臓器学会で,小児人工循環のシンポジウムが特集された.アメリカには小児用人工心臓がない.新生児から大人用までラインアップしているドイツ製人工心臓が一躍注目を集め,真剣に導入が検討された.これらの世界人工心臓臨床の流れに対して,日本では,関係者の努力むなしく,臨床で使える人工心臓は極めて限られ,世界の臨床で活躍中の最新の人工心臓が許可されず,それで助かる患者が恩恵を受けられないままでいる.生命維持,全身状態回復に絶大な効果のある人工心臓の導入が遅れている臨床の現実.心移植が簡単にできない日本だからこそ,人工心臓の開発と臨床への積極策が必要なのではないだろうか.日本の人工心臓医療の問題点を考察する.

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