C-VIII-5
心筋トロポニンTはアドリアマイシンによる心筋障害の予知に有用である-ラットアドリアマイシン心筋症モデルを用いて-
金沢医科大学小児科
中村常之,高 永煥,新村順子

【背景及び目的】近年,拡張型心筋症の病態把握に心筋トロポニンT(以下TnT)が有用な指標として報告されている.その血中濃度の上昇が心筋細胞のapoptosisに関与することが示唆されている.私達はラットアドリアマイシン心筋症の発症にFas/Fas-ligandシステムを介するapoptosisが関与していることを報告した(Circulation, 2000)が,同様の実験系においてapoptosis心筋細胞の出現とTnTの血中濃度変化の関連について検討する.同時に心臓超音波検査による心機能評価及び組織学的変化との関連,他の血中指標として脳性ナトリウム利尿ペプチド(以下BNP)とも比較検討を加える.【方法】8 週齢のウィスターラット尾静脈より,体重あたり 2mgアドリアマイシン(以下ADR)を週 1 回,連続 8 回の投与を行った.投与開始後 6,8,10,12週の時点で両群共に心臓超音波検査による心機能評価を行った.左室機能指標として左室内径短縮率を用いた.さらに同時に尾動脈より採血を行い,BNP,TnTを測定した.【結果】左室内径短縮率は投与10週以降ADR群はCON群と比較し,有意に低下した.TnT,BNPの経時的血中濃度の変化ではADR群がCON群と比較し,10週,12週の時点で有意に上昇していた(TnT,ADR群v.s.CON群,投与10週後0.096 ± 0.059ng/ml:0.016 ± 0.013ng/ml,投与12週後1.093 ± 0.819:0.010 ± 0.000)(BNP,ADR群v.s.CON群,投与10週後91.8 ± 24.7pg/ml:66.4 ± 15.9pg/ml,12週173.3 ± 15.3:67.3 ± 4.2).また,ADR群内でもTnT,BNPともに10週投与後に比べ,12週投与後は有意に上昇しており,特にTnTでは100倍以上の血中濃度の上昇がみられた.【結論】TnTの血中濃度の上昇は,以前報告したapoptosis細胞の急激な増加の時期と一致している.さらにBNPと比較し,より鋭敏な反応を呈しており,TnTはADRによる心筋障害の予知に有用である.

閉じる