D-VI-10
瘤を確認できなかった川崎病既往例の冠状動脈の検討-増殖因子の免疫組織学的検討を加えて-
東邦大学医学部付属大橋病院病理学講座
高橋 啓,大原関利章,直江史郎

川崎病既往児のfollow up,特に冠状動脈の拡大性変化を示すことなく治癒した患児の経過観察を終了することは可能か,新たな議論が生じている.そこで,瘤の形成を認めなかった川崎病剖検例の冠状動脈に対し免疫組織学的検索を加えた病理学的検索を行い,新たな狭窄へと進展する可能性について考察した.【対象と方法】40病日以降に死亡した川崎病 7 剖検例を対象とした.死亡時年齢:1 歳 7 カ月~15歳.罹患から死亡までの期間:60日~14年.対照に非川崎病 3 小児剖検例(死亡時年齢:2 歳,4 歳)をおいた.これらに対してHE,EvG,AM,Al-B染色を施行し,動脈構成成分,特に内膜について検索し両者間で比較した.さらに,新たな検索が可能であった症例については増殖因子(PDGF-A,TGF-b,VEGF)に対する抗体を用い免疫組織化学的検索を加えた.【結果】7 例中 5 例で対照とは明らかに異なる全周性の内膜肥厚と中膜の菲薄化,内弾性板の伸展が認められ,かつて血管炎が存在したことが推定された.肥厚内膜は発症後 9 カ月死亡例でAl-B染色に強染する豊富な基質中に平滑筋細胞が不均一に分布していたが,1 年以上経過した症例では肥厚内膜の基底側に平滑筋細胞が分布,内腔側にはAl-B染色に強染する細胞密度の低い領域をみた.一方,2 例は対照例と比較して目立たない程度の内膜肥厚をみ,血管構築は良く保たれていた.免疫組織学的には,PDGF-Aは発症後 1 年前後迄の症例の内膜,中膜平滑筋細胞に一部陽性を示しが,それ以降は対照と同様,陰性を示した.TGF-bは川崎病,対照とも全体に陰性を示し,一方,VEGFは川崎病・対照とも内皮細胞,平滑筋細胞に陽性を示す傾向にあった.【考察】剖検にて瘤を確認出来なかった症例の冠状動脈は罹患後数年を経過すると対照と同様の構造を示すようになり,今後狭窄性病変へと進展していく可能性は低いと考えられた.

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