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会長講演 |
小児ST-T complexの 2,3 の知見およびWindkessel modelの拡張とその成果 |
杏林大学医学部小児科 阿波 彰一 |
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小生は約40年にわたる小児科医としての生活を,臓器専門家としては主としてresearch oriented pediatric cardiologistとして過ごした.当初は多用された臨床検査としては心電図(EKG),心音図(PCG)くらいしかなく,現在のようなモニター機器の発達やPICUのシステムもなく,モニターは受持ち医による24時間人間モニターであった.小生もまずEKG,つづいてベクトル心電図(VCG)に興味をもったが,生来のあまのじゃくのため,VCGは人並みに世の流れに沿って研究したが,EKGについては他の研究者があまり目を向けないということでST-T complexに着目し,臨床で目にする所見がどうして起こるかという成因を説明することに腐心した.それは細々と現在迄つづいており,ふり返って半生の大きな興味となったので,講演の前半はaxiom(公理)にあたる
後半は米国への留学後,1970年代半ばから始めたWindkessel modelによる先天性心疾患の臓器血管床循環のマクロ生理学的知見のいくつかに焦点をあてる. 臓器循環のマクロ病態生理学的実相を明らかにするためには 2 つの大きな目的と手段のせめぎあいがある.その 1 は個々の患者で最小限の患者負担でどれだけの精度と独立な観測(測定)量が得られるか-すなわち物理学的,倫理的可観測性(手段)で,その 2 はその観測(測定)量からいかなるパラメターが得られ,臓器循環のrealityに迫れるか(目的,実態解明性)である.この二者は当然ながら一定の相互背反性がある.Realityに迫るため直接の測定量よりさかのぼって一定のパラメターを算出(解析)する.その最も簡単な例は,血管床入口部の平均圧と床の流量,出口の平均圧による定常流を想定した血管床抵抗(粘性抵抗)の算出である.この考えの先には血管床各部分をさらに細かく分け,夫々の部の生理学的性質をパラメターとするモデルを考え,実際の観測量からモデル構造を利用して夫々のパラメターを算出することになるが,それにはより精確で独立な,解析にたえる多くの観測量とモデル構造の複雑難解性の増加を伴う.例えば肺(体)血管床の入力インピーダンス,脈波伝播速度,動脈側での反射波解析による血管床末梢部の硬化性病変の検出等も試み有益ではあったが,上記の難点を伴った.そこで,従来の単純な通常の抵抗 1 個の血管床モデルの次にパラメター 2 個(粘性抵抗Rと容量抵抗compliance,C)のWindkessel(W) model(elastic reservoir model)が小児の先天性心疾患肺(体)循環でも,通常のカテ検査時の測定量であるカテ経由圧と心拍出量のみでよく成立することを証明し,このモデルを用いて多くのrealityを明らかにした. このモデルは機能的観点から血管床を動脈側で等圧の範囲を一つの弾性壁にかこまれた袋と仮定し(Windkessel),その先に圧が末梢に向かって低下する抵抗Rをもった管と仮定している.袋の容量抵抗(袋内圧の上昇に対する血液体積の増加)をC(compliance)と表す.モデル構造はFrankの原形で式(1),(2)より成る.
式(3),(4)はWFd,WFsを未知数とする単純な 2 式で他は(1),(2)および直接カテdataより求められる量なので,WFd,WFsについて解ける.これらのパラメターよりC,R,t(= RC),WS,WFなどがすべてわかり,一回拍出ごとに,WSの大きさの周期内の変動,そこを経て末梢に流出する割合(Windkessel clearance)など実相がすべて明らかにできる.肺循環についての負荷の変化による血流動態のこの面からの変化もこの拡張したモデルを用いて解説する. |
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