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単純ヘルペスウイルス(HSV)胎内感染による,劇症型心筋炎の新生児期発症例
関西医科大学小児科
辰巳貴美子,寺口正之,池本裕実子

【要旨】HSVによる胎内感染と考えられた劇症型心筋炎の新生児例を経験したので報告する.【症例】日齢 3 の男児.【妊娠歴】分娩 2 日前に母体の発熱・炎症反応弱陽性を認めた.【分娩歴】在胎40週,出生体重3,330g,仮死なく出生.生直後の血液検査では特に異常は認めなかった.【症状経過】日齢 3 に発熱・痙攣を認め入院した.白血球6,600.CRP 1.32mg/dl.抗菌薬を開始した.入院時スクリーニングの心エコーでは,特に異常は認めなかった.発熱・炎症反応弱陽性は持続したが,哺乳力は良好であった.血液・咽頭・鼻腔・髄液培養は陰性であった.日齢11から哺乳力不良,顔色不良・低血圧・呼吸不全・肝腫大・代謝性アシドーシス・乏尿が急激に進行した.この際の心エコーで左室駆出率20%台と著明に低下し,胸部エックス線写真でCTR 70%と著明な拡大を認めた.心原性ショックと診断し挿管・鎮静・カテコラミン,PDE3阻害剤の投与を開始した.また日齢13の血液検査からHSV IgMが陽性となり,HSVによる劇症型心筋炎と診断しγグロブリン・アシクロビルを投与した.日齢14から徐々に心機能の回復を認め,薬剤も徐々に中止し生後 2 カ月で退院した.現在外来通院中で,利尿剤・ジゴキシン内服下で左室駆出率50%であり,左室乳頭筋に石灰化を認めている.なお母親の血液検査・膣培養検査からはHSVに関する有意な結果は得られなかった.【考察】この患児では治療開始後も,炎症反応弱陽性・発熱が持続した.母親からHSV陽性結果は得られなかった.しかし出生前の母親の症状・検査結果および児のHSV IgMが陽性であることから,HSVの胎内感染であると診断した.新生児期発症の劇症型心筋炎は早期発見が困難で,かつ進行も急激である.新生児期に発症する発熱や,母体の出生前発熱に関しては,心筋炎も念頭に置き,新生児の注意深い観察が必要である.

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