P-I-111
孤立性心筋緻密化障害と診断された女性の妊娠分娩の 1 例
滋賀医科大学小児科1),富山医科薬科大学小児科2)
渡邊格子1),神谷 博1),藤野英俊1),中川雅生1),市田蕗子2)

左心室壁の過剰な網目状の肉柱とスポンジ様の深い間隙を持つ疾患群である心筋緻密化障害は,左室機能低下を来す予後不良の疾患で,分娩に至った症例の報告はない.演者らは,孤立性心筋緻密化障害の症例において妊娠分娩の経過を観察する機会を得たので報告する.症例は24歳の女性.生直後より心雑音を指摘され,他院で先天性僧帽弁閉鎖不全の診断を受け経過観察されていた.成長の過程で心不全の兆候はなく,無投薬であった.23歳の時に階段昇降時に息切れを自覚するようになった.この時の心エコーでは僧帽弁閉鎖不全はみられず,左室心尖部・下壁・後壁の網目状肉柱形成が確認され,孤立性心筋緻密化障害と診断された.出産の希望が強く,妊娠・分娩のケアを目的に当科を紹介された.家族歴に特記すべきことなし.当科受診時の心エコーで,F.S.:27%,LVDd:53mmと左心機能は保たれていたことから妊娠・分娩は可能と判断した.心筋緻密化障害に関する遺伝子異常はなかった.2002年 5 月に妊娠が確認され,以後産科と当科で注意深く観察しながら経時的に心電図および心エコーを施行した.妊娠後期には体重増加が14kgとなり,心エコーで左室機能の低下(F.S.:0.19,LVDd:52mm)を認め,また,切迫早産のため入院安静を要したが,無投薬で分娩に至った.妊娠40週 1 日に経膣にて2,930gの男児を出産した.分娩後は速やかに心機能が改善し(3 日目でF.S.:0.32%,LVDd:53mm),母児とも問題なく経過している.心筋緻密化障害はunclassified cardiomyopathyの一つとして位置づけられており,心不全を呈するものが多い.しかし,経過は個々の症例で多様であり,本例のように妊娠後期に心機能の低下を認めたが注意深い経過観察により,妊娠分娩が可能な例があるので報告した.

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