D-II-8
家族性心房中隔欠損症(ASD)におけるCSX/NKX2.5の遺伝子変異の解析
東京女子医科大学附属日本心臓血圧研究所循環器小児科1),日赤和歌山医療センター第二小児科2)
平山佳代子1),上砂光裕1),中村好秀2),古谷道子1),秋元 馨1),今村伸一郎1),高尾篤良1),中澤 誠1),松岡瑠美子1)

【目的】CSX/NKX2.5は,初め心原基形成関与遺伝子,後にASDおよび房室ブロック(AV block)の疾患遺伝子として報告された.今回私たちは家族性ASDについてCSX/NKX2.5の遺伝子変異と臨床的な特徴を検討した.【対象と方法】家族性ASD 13例(うち 3 例はAV blockを伴う)の患者あるいはその家族の同意を得て,末梢血採血を行い,Epstein-Barr virusを用いてリンパ球から樹立した細胞株よりDNAを抽出した.同遺伝子のエクソンおよび近傍のイントロン領域をPCR法にて増幅し,直接シークエンス法で塩基配列を解析した.【結果】AV blockを伴うASD 1 例はエクソン 2 の568番目の塩基CがTに変異し,そのため190番目のアミノ酸ArgがCysに置換する.このアミノ酸は種を超えて良く保存され,この変異は健常な日本人100例には認められず,本症例の成因としてCSX/NKX2.5の変異Arg190Cysが関与すると考えられる.本症例は36歳女性で,ASD(secundum + cribriform型)およびIII°のAV blockと診断後,ASDの直接閉鎖術およびpacemaker植込術を施行され,心房頻拍のためVVI pacingがなされている.家族歴は父方祖母に心疾患(詳細不明),従兄弟にASDを認め,現時点で 7 歳の娘には心疾患および不整脈は認められない.【考察】本症例はCSX/NKX2.5の遺伝子変異報告としては本邦 3 例目である.本症例がホメオボックス内の変異(全世界的に 9 例目)であるのに対し,他 2 例はホメオボックス外の変異である.従来の報告を検討すると,ナンセンス変異あるいはホメオボックス内の変異は,臨床的にAV blockを伴うASDが生じる傾向がある.従って,この遺伝子変異を認める場合,生下時からAV blockが見られなくとも,その後の十分な観察が必要と思われる.

閉じる