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先天性心疾患術後に合併した乳び胸の治療
茨城県立こども病院心臓血管外科
池田晃彦,阿部正一,金本真也

【目的】乳び胸(乳び心嚢水)は先天性心疾患術後に発症する合併症の一つであり呼吸障害,栄養障害,免疫力低下等を来しうる.今回われわれは当施設における先天性心疾患術後に発症した乳び胸11症例の臨床経過について検討したので報告する.【対象】1998年 4 月から2002年12月に当院で施行された先天性心疾患手術348例のうち術後乳び胸(乳び心嚢水)を合併した11例を対象とした.内訳は乳び胸11例,乳び心嚢水 1 例(1 例は重複),平均年齢2.0歳(日齢 9~6 歳),男性 7 例・女性 4 例,手術は肺動脈絞扼術1例,重複大動脈修復術 1 例,Jatene手術 1 例,総肺静脈還流異常修復術 1 例,心内根治術 3 例,Fontan型手術 4 例であった.【方法】入院診療録を基にしたretrospective studyを行った.【結果】発生頻度は乳び胸3.2%,乳び心嚢水0.3%であった.手術から乳び胸発症までの期間は9.5±6.6(1~25)日,経口摂取開始から乳び胸発症までの期間は3.5±6.6(0~23)日,乳び胸発症から消失までの期間は19.3±22.8(3~76)日,ドレーン留置期間は24.1±26.1(5~94)日であった.総排液量は300±287(23~779)ml/kg,1日当りの平均排液量は17.8±11.7(5.2~41.3)ml/kg/day,最大排液量は43.2±34.5(10~129)ml/kg/dayであった.外科的治療は 1 例も行わず,全例低脂肪食あるいは完全中心静脈栄養による保存的治療を施行した.8 例は 3 週間以内に乳びの消失を認めたが,3 例は 3 週間を越えて長期化した.そのうちの 2 例にオクトレオチドを使用したがその有効性は明らかではなかった.【結論】低脂肪食あるいは完全中心静脈栄養による保存的療法のみでは長期化する症例をどのように治療していくかが今後の課題である.最近オクトレオチドが乳び胸に有効であるという報告も多いが,今回のわれわれの経験ではその効果は明らかではなくprospective studyによる有効性の実証が必要であると考えられた.

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