D-I-4
PLCepsilonはマウス正常大動脈弁形成に必須である
横浜市立大学大学院医学研究科循環制御医学1),神戸大学大学院医学系研究科分子生物学2),横浜市立大学医学部小児科3)
南沢 享1),多々野誠2),枝松裕紀2),横山詩子3),石川義弘1),片岡 徹2)

【目的】Phospholipase C(PLC)はイノシトールリン脂質代謝系の重要な加水分解酵素であり,細胞内シグナル伝達において,多様な役割を演じている.PLCには 5 種類のサブタイプが存在し,そのうちのPLCepsilonは近年片岡らによって発見された.PLCepsilonは他のPLCサブタイプと異なり,Ras/Rap1により活性調節を受けるという特徴があるが,その生体内での役割については不明である.PLCepsilonの機能解析のため,PLCepsilon欠損(KO)マウスを作成したところ,KOマウスでは,心肥大を生じることが判明した.本研究では,PLCepsilon欠損によって,心肥大を来す原因を解明することを目的とした.【方法】KOマウスと野生型(WT)マウスにおいて,(1)心臓重量/体重比の比較,(2)心エコー検査,(3)心臓カテーテル検査,(4)組織標本における比較を行った.【結果】(1)KOマウスでは,WTマウスに比して,左室重量に有意な増加がみられた.(2)心エコー検査において,KOマウスでは,WTマウスに比して,左室拡張末期径,収縮末期径が有意に大きく,短縮率の低下がみられた.ドプラ法によって,KOマウスでは,大動脈弁以降での血流速度の亢進(230±41cm/sec)と大動脈弁逆流波を認めた.大動脈弁輪径はKO,WTマウスで差を認めなかった.(3)KOマウスにおいて,左心室から大動脈への引き抜き圧較差(22.8±4.5mmHg)を認めた.(4)組織標本において,KOマウスの大動脈弁交連部の癒合や肥厚などの所見を認めた.【結論】PLCepsilon欠損マウスの心肥大の原因は大動脈弁閉鎖不全および狭窄が原因と考えられた.本研究の結果は,PLCepsilonがマウス正常大動脈弁形成に必須であることを示し,大動脈弁形成の分子機序を解明するための新知見であると考えられた.

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