P-I-A-17
両側冠動脈のostial atresiaを合併した左心低形成の 1 例
神奈川県立こども医療センター循環器科1),神奈川県立こども医療センター心臓血管外科2)
上田秀明1),金 基成1),林 憲一1),宮本朋幸1),康井制洋1),武田裕子2),麻生俊英2)

【背景】右冠動脈または左冠動脈のostial atresiaなど一方の冠動脈ostial atresiaはまれながら報告されているが,今回われわれは,両側冠動脈のostial atresiaを認めた症例を経験した.【症例】妊娠39週 3 日3,324g.前回帝切のため帝王切開で出生.Apgar score 1 分値 9 点.出生時よりチアノーゼ,多呼吸を認め,心エコー上,左室低形成のため,加療目的当科に入院.両大血管右室起始,左室低形成,僧帽弁閉鎖,大動脈弁下狭窄,上行大動脈の低形成,卵円孔開存,動脈管開存と診断.窒素ガスを用いた低酸素療法を開始した.自発呼吸管理下に,全身状態の安定が図られ日齢 8 にmodified Norwood手術を行った.手術開始時よりSTの低下,wide QRSの心電図異常を認め,冠動脈奇形が疑われ,検索を行った.冠動脈は,両側とも上行大動脈からは起始していない,または入口部が閉塞していることが判明した.術中,心筋保護液を注入することができず,またどこから冠血流が供給されているか確認しえなかった.結果的に心室細動から心停止に至り,ECMOを装着したが,心収縮力は回復せず,永眠された.剖検では,冠動脈のorificeは認められなかった.左冠動脈の本来なら開口していると思われる箇所にdimpleを認めるのみであった.心筋表面上に局所的に急性虚血性変化によると思われる心筋壊死像を認めた.【考察】片側性の冠動脈のostial atresia は,数例報告されており,左冠動脈に多いとされている.ほかに単一冠動脈や冠動脈─心室瘻など冠動脈奇形合併例の左心低形成症候群に関する報告例はみられるが,本症例のように両冠動脈のostial atresiaの報告は,見当たらない.modified Norwood手術の術前には,左心低形成症候群が冠動脈奇形を合併する可能性を念頭に入れ,念入りな冠動脈の検索が必要である.

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