P-I-D-8
遺残部分肺静脈還流異常(PAPVD Ib)に対するWilliams法を用いた根治術の 1 例
九州厚生年金病院心臓血管外科1),九州厚生年金病院小児科2)
落合由恵1),井本 浩1),坂本真人1),佐野哲朗1),久米田洋志1),瀬瀬 顯1),渡辺まみ江2),弓削哲二2),城尾邦隆2)

混合型総肺静脈還流異常症(TAPVD IV;Ia + Ib)に対して,右上肺静脈の上大静脈(SVC)への還流は放置したまま,6 カ月時に左房─共通肺静脈幹の吻合を行った.その後12歳時に遺残PAPVD Ibに対しWilliams法による根治術を施行したので報告する.【症例】6 カ月の女児.mixed type TAPVD IV型;Ia + Ibに対して,6 カ月時(体重;5.4kg)に左房─共通肺静脈幹の吻合を行い,右上肺静脈のSVCへの還流は放置した.この時,ASDは縫合閉鎖した.術直後の心臓カテーテル検査ではQp/Qs = 1.77,肺対体血圧比(Pp/Ps)は0.31であり,5 歳 7 カ月時の検査では,Qp/Qs = 1.81,Pp/Ps = 0.21であった.12歳時の検査ではQp/Qs = 1.65,Pp/Ps = 0.20であり,検査上での著変は認められなかったものの,体動時の息切れなどの症状が出現するようになったため,根治術を施行した.胸骨正中切開を行い,無名静脈およびIVCからの脱血と上行大動脈からの送血にて体外循環を開始.大動脈遮断,心停止下にまず,SVCを右上肺静脈合流部直上で斜めに切断し,近位端はPVOとならないよう注意深く縫合閉鎖した.次に心房中隔に交通口を作成し,この交通口とSVCのRA入口部との間に自己心膜のトンネルパッチを作成,これにより右上肺静脈より左房に至るルートを完成した.右心耳を切開し,肉柱を十分に切除後,SVC遠位端と右心耳を吸収糸で吻合した.術後経過は良好で,右上肺静脈から左房,SVCから右心房への血流はスムーズであった.また今回の手術後に洞機能不全や上室性不整脈の頻発などは認められなかった.【結語】本症例では根治術までの11年間あまりの期間中に肺高血圧の進行はなく,Qp/Qsもあまり変化がなかった.患児の成長を待って安全にWilliams法による根治術ができた.

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