P-I-D-12
Carvedilolが著効したFontan手術後遠隔期の難治性心不全症例
榊原記念病院小児科
石橋奈保子,朴 仁三,畠井芳穂,西山光則,嘉川忠博,小林賢司,村上保夫,森 克彦,三森重和

【目的】体─肺側副血管新生,不整脈,右房拡大はいずれもFontan(F)術後遠隔期の血行動態悪化要因と考えられる.carvedilol(C)が著効したF術後遠隔期の難治性心不全症例を経験したので報告する.【症例】28歳男性.【診断】心室中隔欠損,肺動脈狭窄を伴い上下の心室関係を有する修正大血管転位.【経過】4 歳時右Blalock-Taussig手術,12歳時心耳─肺動脈直接吻合によるF手術を施行.術後12年頃より運動耐容能低下,浮腫などの心不全症状が出現し入退院を繰り返すようになった.このため術後15年よりC(2mg/日)内服開始となった.心臓カテーテル検査で中心静脈圧(CVP)29(mmHg),酸素飽和度(SO2)は右房38(%),大動脈66で,無名静脈から左上肺静脈への太い側副静脈および多数の体─肺側副動脈を認めた.右室駆出率(EF)15(%),左室EF20と心室収縮能は著しく低下していた.Cを30mg/日まで増量し以後同量で維持した.本剤開始 1 年後の心臓カテーテル検査ではCVP 16と低下,SO2は右房,大動脈ともそれぞれ61,78と上昇し,EFは右室39,左室29へと改善した.その後 2 度にわたって体─肺側副動脈に対するコイル塞栓術を行い,C開始前のCTR 69%は58%へと減少し臨床症状も明らかに改善した.現在,側副静脈結紮兼TCPCへの転換術を待機中である.【考案】本症例においては体・肺側副血管による容量負荷および低酸素血症,不整脈,F術後であるための心室拡張障害等が心不全の原因と考えられる.Cは抗心不全作用としてcatecholamineによる心筋障害の抑制,β受容体のup-regulation,心筋のエネルギー効率ならびに心室コンプライアンスの改善,抗不整脈作用,α遮断作用による体血管抵抗低下などを有しているため本症例に著効を示したものと思われた.

閉じる