P-I-E-5
異所性胸腺による呼吸困難を伴った心臓右方偏位,心房中隔欠損症の 1 乳児例
滋賀医科大学小児科1),長浜赤十字病院小児科2)
白井丈晶1, 2),奥野昌彦2),中川雅生1)

異所性胸腺は発生の段階において胸郭内への下降不全により生じ,一般には無症状で経過するとされている.今回われわれは,修正 6 カ月に異所性胸腺により呼吸困難を来した 1 乳児例を経験した.【症例】8 カ月女児.母体の妊娠中毒症のため,在胎32週 6 日,帝王切開にて体重1,592gで出生した.母は42歳.父は47歳.家族歴は特記すべきことなし.出生時より,耳介低位,副耳,短い眼裂,凹んだ眼,小顎などの顔貌奇形があり,突出した臍,心房中隔欠損,心臓の右方偏位を認めた.頸部下部に呼吸運動に伴い出現と消退を繰り返す腫瘤に気付かれた.染色体(Gバンド)異常,22q11.2欠失は認めなかった.修正 6 カ月時に感冒にて受診した際,採血中に喘鳴が強まり無呼吸を来した.頸部には径 5cm大の腫瘤が触知された.腫瘤が気道を圧迫したことによる呼吸困難と考えられ,精査加療目的で入院した.臨床的には呼気時に頸部に腫瘤が突出し狭窄音が聴取され,これは腹臥位でも軽快しなかった.頸部透視にて目立った気道閉塞は認めなかった.頸部超音波検査では頸部と胸郭入口部の間を呼吸に伴い移動する軟部陰影が存在し,胸腺と考えられた.呼吸運動に同期させた頸部MRI検査にて,通常より上部に位置する軟部組織が確認された.気管支鏡検査にて気管分岐部の軟化症を確認した.ステロイド投与にて上気道狭窄の症状は一時的に消失したことから,気管軟化症のため努力呼吸時に胸腔内圧が上昇した結果,異所性胸腺が頸部に突出し上気道の圧迫症状を来していると考えられた.心臓カテーテル検査でPA slingは認めなかった.【まとめ】異所性胸腺による呼吸困難の報告は海外の文献にて散見されるのみであり,本邦での報告は調べえた限りでは存在しなかった.先天性心疾患や心臓の位置異常を伴った頸部胸腺はまれであるが,両者は発生過程での共通の原因に基づくことが示唆された.

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