P-I-E-8
シベンゾリンの急性中毒により多彩な不整脈を来した 1 男児例
長崎大学医学部小児科
本田涼子,大坪善数,岡崎 覚,山本浩一,本村秀樹,手島秀剛,宮副初司,森内浩幸

【はじめに】シベンゾリンは,Vaughaus-Williams分類上 1a群に分類される抗不整脈薬である.Naチャンネル阻害作用に加えて,Kチャンネル,Caチャンネルの阻害作用,ムスカリン受容体拮抗作用などさまざまな作用を持つ.その結果,成人領域では,上室性,心室性の種々の頻拍性不整脈に対して投与されているが,時に過度の薬剤投与による催不整脈作用は無視できず慎重な経過観察が必要とされている.今回われわれは,父親に処方されたシベンゾリンの誤嚥による急性中毒の 2 歳男児例を経験したので報告する.【症例】患者は 2 歳男児.父親に処方されている抗不整脈薬コハク酸シベンゾリン(シベノール錠)を大量誤飲(約2,000mg)し,意識レベルの低下と高度徐脈が出現したため,当院へ救急搬送された.来院時心原性ショックの状態で,またシベンゾリン血中濃度は4,640ng/ml(有効血中濃度70~250ng/ml)であった.胃洗浄に並行して初期のwide QRSおよび徐脈に対しては,一時的体外ペースメーカの留置で対応したが,誤嚥 6 時間後から,リドカイン持続静注や直流通電に抵抗性の持続性心室頻拍が出現した.血圧値等から最低限の循環血液量は保持されていると考えて経過を見た後,最終的に誤嚥22時間後の直流通電にて停止した.その後心電図異常は出現せず,後遺症なく退院となった.【考察】これまで報告されたシベンゾリン中毒は,ほとんど通常量投与での血中濃度上昇によるものであり,過量服用による報告例はまれであり小児例の報告はない.またシベンゾリンは多チャンネルを抑制するため,症状の変化の予測が困難であり,緊急かつ慎重な対応が望まれる.今回われわれが経験した症例においては,当初Naチャンネルの抑制によって高度の徐脈および低血圧が出現し,その後の心室頻拍はKチャンネル抑制により不応期の不均一性が生じたことによるリエントリが原因と考えている.

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