P-I-F-9
高度の左室機能不全を伴うファロー四徴症の根治術―周術期両室ペーシングの有用性―
九州厚生年金病院心臓血管外科
佐野哲朗,井本 浩,落合由恵,坂本真人,瀬瀬 顯

ファロー四徴症(TOF)の根治術において,術前からある左室機能不全は極めて大きな問題である.今回,われわれは高度の左室機能不全を伴うTOF症例に対し,人工心肺離脱時に両室ペーシング(BVP)を行い,良好な結果を得たので報告する.【症例】症例は 1 歳 6 カ月の女児で,1 生日にTOF,severe PSと診断され,1 生月にBVP施行.5 生月より左室の拡大とEFの低下(29%)を認めた.7 生月,左B-Tシャント術施行.これにより肺動脈の成長は促されたが,左心機能はさらに低下(LVEF = 13~23%,LVEDV = 288%N,LVPW = 4.3mm)し,拡張型心筋症の状態であった.心室中隔の奇異運動を認め,ECG上CRBBBであった.開胸後に一時ペーシングにてBVPを行ったところ,心室中隔の奇異運動が消失し,明らかな血行動態の改善が認められた(収縮期血圧が10mmHg上昇).手術は人工心肺,心停止下にVSDパッチ閉鎖,1 弁付きパッチによる右室流出路再建を行った.心内修復終了後,BVPを行いながら人工心肺からの離脱を行った.DOA 10μg/min/kg,DOB 10μg/min/kgにて容易に離脱できた.離脱後,永久ペーシング用心外膜リードを縫着し,BVPを行いながら,安定した血行動態でICUへ搬送できた.麻酔からの覚醒時に横隔膜のtwitchingがあり,BVPを中止にした.術後 7 日目に心エコーでBVPの有効性を検討した.BVPにより心室中隔の奇異運動は軽減するものの,BVPなしでも心機能は著しく改善しており(EF = 54%),この時点では両室ペーシングによる心機能の改善は認められなかった.【結語】心室中隔の奇異運動が左室機能不全を悪化させている症例の開心術において,BVPは術後急性期の左心不全を乗り切る一つの戦略になりうると考えられた.

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