P-I-G-8
純型肺動脈閉鎖症および重症肺動脈狭窄症に対するBrock手術後早期の問題点
熊本市立熊本市民病院小児循環器センター外科1),熊本市立熊本市民病院小児循環器センター内科2)
鶴原由一1),米永國宏1),小田晋一郎1),八浪浩一2),中村紳二2)

【目的】純型肺動脈閉鎖症(PPA)または重症肺動脈狭窄症(critical PS)に対する非直視下経心室的肺動脈弁切開術(Brock手術)施行例において,術後早期に重篤な循環不全を来した症例を経験したのでその原因を検討した.【対象・方法】対象はBrock手術を行ったPPA 5 例,critical PS 1 例(日齢11~33日).全例PGE1依存性PDAを有していた.手術はBrock刀を用いて経心室的に肺動脈弁を切開した後Hegar拡張器により切開部を拡大した.PDAは 3 例で放置し 3 例ではmodified Blalock-Taussig shuntを作製した後PDAを結紮した.【結果】手術死亡なし.術後の血行動態は 3 例では安定していたが(A群),残る 3 例では術後24時間以内に突然の循環不全を来しadrenaline持続静注等を余儀なくされた(B群).この両群間で術前・術中因子等を比較検討した.日齢,体重,心室容量,心房圧,Qp/Qs,肺動脈弁輪径,三尖弁輪径,三尖弁逆流の程度に差を認めなかった.A群の 1 例で右室依存性冠循環となっており急激な右室圧の減圧を避けるために肺動脈弁は小切開にとどめた.術前右室圧はA群では全例120mmHg以下,B群では120mmHg以上であり,右室圧/左室圧比はB群が有意に高値であった(1.40±0.28 vs 1.86±0.06,p < 0.05).術後早期の動脈血酸素飽和度は,A群では全例85%以下,B群では85%以上とB群で有意に高かった(76.7±2.9 vs 88.3±4.7%,p < 0.05).【考察】B群では術後動脈血酸素飽和度が高く高肺血流を来していた.またB群は術前右室圧が高値であり,血管造影で右室─冠動脈瘻を認めなくともsinusoidal communicationが発達している可能性があり,急激な右室圧減圧は心筋虚血をもたらす危険がある.右室圧が高い症例(RVP > 120mmHg,RVP/LVP > 1.8)では減圧しすぎないようにすべきである.また術後早期にSpO2が85%を超える場合には,窒素ガス吸入などを含む肺血流管理を考慮すべきである.

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