P-I-G-17
左心低形成症候群に対し,二心室修復を試みた 1 例
富山医科薬科大学第一外科1),富山医科薬科大学小児科2)
齋藤和由1),大嶋義博1),土肥善郎1),名倉里織1),三崎拓郎1),橋本郁夫2),市田蕗子2),吉田丈俊2),二谷 武2),宮脇利男2)

【はじめに】広義の左心低形成症候群(HLHS)に対して,左室を利用すべきか否かはその形態と機能の面から判断される.今回,われわれはその境界例と考えられる症例に対して,両心室を利用した心内修復術を目指し,弓部の形成とASDの部分閉鎖を試みたので,報告する.【症例】日齢16の男児.出生直後よりチアノ─ゼがみられ,心エコーにてHLHS(MS,AS),CoA,SASと診断された.心エコー上,左室長径22mm(指数11.5),短径10mm,左室流出路径(LVOT)4.5mm(指数2.3),僧帽弁輪径 8mm,弁口面積0.47cm2(指数2.6)と低形成で,ASDは径 9mm.Norwood手術待機のため,lipo PGE1の投与を開始したが,日齢 4 よりPDAを介する左右短絡の増大,TRが出現し,右心不全が考えられたため,lipo PGE1を減量したところ,日齢 6 にPDAが閉鎖した.しかし,血行動態は維持され,心エコー上,左室長径25mm,短径12mm,MV弁輪 9mmと左室の拡大がみられた.両心室を生かした修復が可能ではないかと考えられ,日齢16に弓部の拡大端々吻合およびASD部分閉鎖(径 5mmの有孔パッチ閉鎖)を行った.【経過】CVP 10mmHg,左房圧13mmHg,体血圧60mmHgで体外循環より離脱,以後の血行動態も安定していた.第一病日に抜管,以後順調に経過,退院前(術後 8 日目)の心エコーでは,LV長径27mm,短径14mm,僧帽弁輪9.4mm,ASDでの流速0.96m/sであった.生後 6 カ月の現在,体重6.8kgと発育は良好で,心エコーでは,LVDd 24mm(90%N),LVOT 7mm,MV 16×13mm(流速の増大なし),ASD径 3mm(流速は1.4m/s)と,十分な左室の拡大がみられた.【結語】KovalchinらはASに対する治療として両心室を利用するか否かは,上行大動脈および弓部において順行性の流れがあるかどうかが,予後と関係することを示している.二心室修復の適応境界例には,PDA閉鎖試験が有用で,またASDの部分閉鎖は血行動態を破綻させず,左心系の成長を促すと考えられた.

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