D-II-16
左肺無形成を合併した三尖弁閉鎖症(1b)に対するFontan型手術例
広島市立広島市民病院心臓血管外科1),広島市立広島市民病院小児循環器科2)
久持邦和1),鎌田政博2),木村健秀2),木口久子2),柚木継二1),大庭 治1)

一側肺無形成症は極めてまれな疾患であり,正確な頻度も不明とされている.さらに先天性心疾患を合併した症例の報告は散見されるだけである.われわれは,両方向性Glenn手術を経てFontan型手術(TCPC)に到達しえた,左肺無形成を合併した三尖弁閉鎖症(1b)を経験したので報告する.症例は 6 歳,女児.39週 4 日,正常分娩にて出生.2,246g,Apgarスコア 9.生後 9 日目に心雑音を指摘され,精査の結果,上記と診断された.左肺無形成は肺血流シンチにて取り込みが認められないこと,ヘリカルCTにて左主気管枝が途絶していることから確定された.当初はチアノーゼが軽度であったため,内科的に経過観察とした.4 歳 9 カ月時に両方向性Glenn手術を施行.Glenn手術 1 年後のカテーテル検査にて,PAP 15mmHg,PAR 1.5,PA index 324と良好な肺血管床の成長が見られ,Fontan型手術の適応と判断された.6 歳,13.3kg時に18mm Gore-Texグラフトを用いて心内導管TCPC(主肺動脈結紮)を施行した.正中切開にて開胸すると,右肺が正中を越えて膨張していた.心臓は左胸腔へ脱転していたが,上下大静脈への到達はむしろ容易であった.術中術後経過は順調で,当日抜管,胸腔ドレーンを 3 日目に抜去した.術後26日目に退院.1 年後のカテーテル検査にてもPAP 10mmHg,PAR 1.7と良好な結果であった.現在術後 2 年を経過し,検査時を除いて再入院なく,利尿剤とアスピリン内服のみで良好な経過である.文献的には先天性肺無形成症は約半数が10歳までに,主に合併奇形のため死亡するとされている.また右肺無形成のほうが左側より予後が悪く,その理由はより多くの奇形を合併することと,縦隔の偏位が強度となるためとされている.本症例は右肺の成長が良好であったこと,無形成肺が左側であり,心臓・上下大静脈の偏位が軽度であったことからTCPC経路に屈曲や偏位を起こすことなく手術可能であったため,良好な結果を得られたものと思われる.

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