P-II-G-9
重症拡張型心筋症のβ遮断薬治療について
東北大学医学部小児科
田中高志,柿崎周平,大原朋一郎,大野忠行,小澤 晃

【背景】2001年COPERNICUS試験が発表されβ遮断薬治療が重症心不全に有効であるとのエビデンスが報告されたが,利尿剤の静注からも離脱できない最重症例に対する治療法は確立されておらず小児での報告も乏しい.今回われわれの経験した症例でこのような治療につき検討する.【症例】3 歳男児.完全大血管転位症(III型)Rastelli術後に拡張型心筋症となりジゴキシン,利尿剤,エナラプリル内服下に外来観察中であったが心不全が徐々に悪化し,術後 9 カ月目に入院となった.入院時にはLVEF 19%,CTR 80%,BNP 3,430で軽度肝機能障害,顔面浮腫,食欲不振が認められた.利尿剤の静注を行うも全身状態の改善なく,PDEIII阻害薬(オルプリノン)の持続静注により食欲活気の回復がみられた(BNP 1,296).ただし利尿剤とPDEIII阻害薬を内服に切り替えると再び心不全症状の悪化を認め経口摂取もできなくなった(BNP 5,175).結局PDEIII阻害薬持続静注と利尿剤の静注を続けたままカルベジロールを0.01μg/kg/dayから内服開始した.開始後 2 日目には食欲不振,活動性低下が目立つようになったが,0.005μg/kg/dayに減量し数日後には症状が回復した.その後再び0.01μg/kg/dayに増量したが症状の悪化は認めず以後 1 週間ごとにおおむね1.5倍ずつに緩徐に増量する方法をとり目標の0.4μg/kg/dayに約 3 カ月の経過で到達した.この時点で利尿剤とPDEIII阻害薬は内服への変更が可能となった.食欲と活気は良好になり肝腫大の軽減もみられBNPは321まで低下した.心拡大の改善(CTR70%)もみられたがLVEFでは有意な変化はみられなかった.約 5 カ月の経過で退院が可能となった.【結語】拡張型心筋症においてPDEIII阻害薬の持続静注や利尿剤の静注から離脱できない重症例においてもβ遮断薬治療を導入することにより離脱できる可能性のあることが示唆された.

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