P-II-G-10
長期にわたるVVIペーシングにより拡張型心筋症様病態を呈したサージカルブロックの 1 学童例
弘前大学医学部小児科1),弘前大学医学部第一外科2),青森県立中央病院小児科3),弘前大学医学部保健学科4)
佐藤 工1),米坂 勧4),高橋 徹1),江渡修司1),大谷勝記1),佐藤 啓1),上田知美1),鈴木保之2),中田利正3)

【緒言】近年,徐脈性不整脈に対する右室ペーシング遠隔期に拡張型心筋症(DCM)様病態を呈する報告例が散見され,ペーシングモードの不適切な設定や長期間の左室desynchronizationの影響が指摘されている.今回幼児期開心術後完全房室ブロック(CAVB)に対する,ペースメーカ植え込み術(PMI,VVIモード)後12年を経て,うっ血性心不全(CHF)を伴うDCM様所見を呈した症例に対し,DDDモードへ設定変更した.その結果心機能およびCHF症状の改善を認めたので報告する.【症例】13歳,男子.1 歳時に他院でVSDパッチ閉鎖術を施行後CAVBを合併し,術後 1 カ月でPMI(VVI;100ppm)が施行された.12年後の2002年11月より尿量減少,浮腫,ADLの低下を認め,当科に紹介され入院.胸部X線上CTR 81%で肺うっ血を呈し,心エコー上両室の強いdyssynchrony,左室拡張期末期径の増大(70mm),左室収縮能低下(LVEF < 10%)および中等度の両側房室弁逆流を認めた.BNPは1,080pg/mlと著増していた.塩酸olprinoneを主体とした抗CHF療法にて臨床症状は改善した.電気生理学的検査時種々のペーシングモードを試み,AV sequential pacingで最大心拍出量を得た条件をもとに,DDD(R)の最終設定を行った.同時に行った心筋生検所見では,心筋細胞肥大,軽度空胞変性,樹枝状分岐異常,軽度の間質線維化を示していた.ペースメーカ条件変更後 2 カ月の時点で胸部X線上CTR 70%と減少し,心エコー上両室dyssynchronyとLVEFは改善(25%)した.BNPは403pg/mlと低下した.1 年経過した現在,心拡大残存(CTR 70%)もNYHA分類I度を維持している.【結語】本症例の心筋障害の原因として不適切な長期高頻度心室ペーシングによるrapid ventricular pacing-induced cardiomyopathyが考慮された.サージカルブロックに対するPMIは急性期には電極留置に制限の多い小児においても,遠隔期心機能悪化例では適切なペーシングモードへの積極的な変更を考慮すべきと思われた.

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