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小児両側生体肺葉移植後の経過―片肺に急性拒絶反応を起こした 1 経験例―
大阪大学大学院医学系研究科小児発達医学講座小児科1),大阪大学大学院医学系研究科臓器制御外科2),松下こどもクリニック3)
小垣滋豊1),南 正人2),松下 享3),黒飛俊二1),那須野明香1),高橋邦彦1),市川 肇2),福嶌教偉2),松田 暉2),大薗恵一1)

【はじめに】肺移植患者の急性拒絶反応は移植後 1 年までに多く,閉塞性細気管支炎の重要な危険因子となるため,予防と早期発見治療が大切である.今回,両側生体肺葉移植後 1 年目に片肺の急性拒絶反応を認めた 1 小児例を経験したので報告する.【症例】12歳男児.心房中隔欠損を合併した非可逆性肺高血圧症に対して,11歳時に両親からの生体肺葉移植術と心内修復術を同時に受けた.経過は良好で術後 4 カ月時に大腿骨頭壊死を合併したが装具固定により軽快し,術後 7 カ月で退院となった.退院時免疫抑制剤はプレドニゾロン・シクロスポリン・MMFの 3 剤で,呼吸機能は%努力肺活量84%,%1 秒量78%であった.退院後はリハビリを続けながら学校生活が可能となり徐々に活動性は向上した.自覚症状はなく経皮酸素飽和度・心拍数・呼吸数は安定していたが,術後 9 カ月頃からはそれまで漸増傾向を認めた努力肺活量・1 秒量がほぼ平衡状態となっていた.1 年目の定期検査でX線写真上左肺の浸潤陰影と右肺の過膨張がみられ,TBLBで左肺に急性拒絶反応(A3)を認めた.血清KL-6(3,500U/ml),SIL-2R(1,130U/ml)と高値を示した.ステロイドパルス療法 1 クール後のTBLBでなお拒絶反応(A2)の所見を認めたことから,ステロイドパルス療法とシクロスポリンからタクロリムスへの変更を行ったところ軽快(A0)し血清KL-6・SIL-2R値も低下した.拒絶に対する治療開始後は,%努力肺活量,%1 秒量ともに漸増し術後 2 年時にはそれぞれ91%,85%となった.【まとめ】両側生体肺葉移植の場合,拒絶反応が片肺のみに起こると対側が過膨張し代償するため肺機能は必ずしも低下せず,また自覚症状も乏しいため発見が遅れる.定期的な胸部X線でのフォローが必須であるが,本症例のように本来小児の生体肺移植後は少しずつ増加すべき肺機能の数値が一定であった場合には増加不良と判定し拒絶反応を疑うべきであると思われた.

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