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抗てんかん薬(カルバマゼピン)が原因と考えられた一過性完全房室ブロックの 1 例
国立病院長崎医療センター小児科1),長崎大学医学部小児科2),国立病院長崎医療センター心臓血管外科3)
本村秀樹1),手島秀剛1),吉永宗義1),宮副初司2),森内浩幸2),濱脇正好3)

カルバマゼピンはてんかん薬として小児でも広く使用されている薬である.その作用はナトリウムチャンネルをブロックすることによるといわれている.そのため循環器系の副作用として洞機能や刺激伝導系の抑制を生じることがある.高齢者の循環器系の副作用の報告は散見されるが,小児では少ない.今回,脳外科手術後にカルバマゼピンの血中濃度が上昇し,一過性完全房室ブロックとなり緊急ペーシングを行い救命できた症例を経験したので報告する.症例は10歳男児.右大脳半球の皮質形成異常のため,難治性てんかんとなった.種々の抗てんかん薬が使用されたが,けいれんのコントールが難しいため外科的治療として機能的大脳半球切除術が行われた.手術終了後 4 時間後より突然 2 度の房室ブロックが出現し心拍数60前後の徐脈となったのでイソプロテレノールの持続点滴を行った.しかし,イソプロテレノール増量にもかかわらず完全房室ブロックへ進行し,心拍20~30前後と高度の徐脈となったため緊急経皮的ペーシングを開始した.ペーシング開始 9 日目に洞調律に回復しペーシングを中止した.後日測定したカルバマゼピンの血中濃度は術前10.8μg/mlと治療域であったが,手術翌日の血中濃度は18.4μg/mlと著明に上昇していた.その後血中濃度の低下とともに洞調律に改善した.手術侵襲,麻酔などが血中濃度上昇に関係があると思われた.カルバマゼピンを内服中で手術を行う場合,血中濃度の変化と循環器系の副作用に注意する必要があると思われた.

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