P-II-C-10
肺静脈から左房に浸潤した胸腔内腫瘍の 1 例
福井大学医学部小児科1),福井県立大学看護福祉学部2)
田村知史1),金谷由宇子1),谷澤昭彦1),齋藤正一2),眞弓光文1)

【背景】心腔内に浸潤する腫瘍は極めてまれであるが,心機能,全身循環への影響,腫瘍塞栓,転移の防止など迅速かつ慎重な対応を要する.今回,われわれは左胸腔内原発の腫瘍が肺静脈経由で左房まで達していた例を経験したので報告する.【症例】3 歳男児.主訴は反復性の肺炎と左胸腔内腫瘤.1 年 7 カ月前より当院入院時までに左下葉の肺炎の診断による 4 回の入院歴があり,約 2 週前より発熱,咳嗽,鼻汁があった.入院 3 日前の前医での胸部CT,MRIで以下のような所見を認めたため,紹介され入院となった.胸部CT像では心外膜に接した左肺下部背側に径10cm大の内部不均一,一部石灰化を伴う腫瘤を認め,それと連続性を有する陰影が左下肺静脈内に存在した.MRI像で同腫瘤はT1,T2 強調画像ともに不均等な信号を呈し,造影でも不均一にエンハンスされた.入院後の心エコーで腫瘤は左下肺静脈から左房内に浸潤し,その先端は僧帽弁直上にまで達していた.胸部X線,胸部CT上,左肺は主気管支の閉塞による無気肺を呈しており腫瘤の急速な増大傾向が考えられた.超音波ガイド下の針生検では奇形腫を疑わせる所見が得られた.腫瘍塞栓,腫瘍の僧帽弁への嵌頓等の危険性を考慮し,速やかな治療開始が必要と考えたが,この時点で外科的に完全摘除することは困難と判断し,第一期治療としてヘパリンによる抗凝固療法下に奇形腫のプロトコールに準じたcisplatin,etoposide,bleomycinの 3 剤による化学療法を選択した.初回化学療法終了 3 日後に施行した心エコーで左房内の腫瘤像は消失し,胸部MRIでも腫瘤陰影は左肺静脈に残存するものの左房内には認められなくなった.以上の所見より化学療法により腫瘤が縮小し,心腔内への浸潤も退縮したものと考えられた.【まとめ】左肺静脈経由で左房に浸潤した胸腔内腫瘍の症例を経験した.初期化学療法への反応は良好で,左房内の腫瘤は速やかに消失した.

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