P-II-D-1
出産を経験した無治療で経過観察中の左冠動脈肺動脈起始の 1 例
大阪市立総合医療センター小児循環器内科
九鬼一郎,村上洋介,兪 幸秀,江原英治,杉本久和

【緒言】左冠動脈肺動脈起始(以下ALCAPA)はまれな先天性心疾患の一つで,臨床症状は左右冠動脈間を結ぶ側副血管の発達程度により異なる.多くは乳児期に心筋梗塞や心不全を呈するが,成人期になってから狭心症状を呈するものもある.また突然死の危険性も報告されている.今回,出産を経験した無治療で経過観察中の左冠動脈肺動脈起始の 1 例を経験したので報告する.【症例】本院初診時19歳女性.乳児期は無症状.8 歳時の学校健診でST低下を指摘.以後,心筋症として経過観察されていた.学生時代は運動時の胸痛を認めた.初診時,心雑音なし.安静時心電図では I,aVLのST低下,左軸偏位,心室期外収縮を示した.心胸郭比0.54.NYHA I であった.心エコーにてALCAPAを疑い,20歳時に心カテ・アンジオにてALCAPAを確認したが,手術の同意が得られず経過観察することになった.結婚を契機に24歳時に再度心カテ・アンジオ実施.僧帽弁逆流は認めず,Qp/Qs 1.32,LVEDV 127% of N,LVEF 52%であった.Tl心筋シンチでは,前壁から心尖部にかけての灌流欠損と再分布を認めた.手術の同意はこの時も得られず,その後離婚.27歳時,妊娠25週で来院.妊娠の継続,出産を希望された.NYHA I で,心エコー上LVEF 57%,LVIDd 59mmで僧帽弁逆流はなく,妊娠の継続,出産は可能と判断した.その後,妊娠中も無症状で経過.40週 6 日,硬膜外麻酔併用下,ST低下の増強は認めたものの不整脈,狭心痛の出現はなく,吸引分娩にて無事正常新生児を出産した.【結語】無治療のALCAPAにおいても妊娠出産が可能であり,病状に合わせた個別対応が重要である.

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