P-II-F-7
心房中隔欠損症におけるナトリウム利尿ペプチド(HANP・BNP)血中濃度の検討―HANP・BNPは右心負荷の程度を反映するか?―
北海道大学医学部小児科
上野倫彦,村上智明,石川友一,齋田吉伯,武田充人

【背景】ナトリウム利尿ペプチドは心負荷に対して心房・心室で分泌されるホルモンであるが,心房中隔欠損症(ASD)における詳細な検討の報告は少ない.【目的】ASDにおけるナトリウム利尿ペプチドの動態を明らかにし,血行動態との関連を検討すること.【検討1】ASDの診断で術前心臓カテーテル検査を施行した10例において,上大静脈・下大静脈・肺動脈・肺静脈・上行大動脈におけるHANP・BNP濃度を測定し比較検討した.上大静脈と下大静脈の平均値を混合静脈とすると,HANP・BNPとも混合静脈より肺動脈でステップアップがみられ有意差を認めた(p < 0.01,p = 0.028).肺動脈,肺静脈,大動脈の間においてはそれぞれ有意差を認めなかった.【検討 2】過去 5 年間に当科でASDの診断で心臓カテーテル検査を施行した52例について,入院時に正中静脈より採血し測定したHANP・BNP血中濃度と,月齢および心臓カテーテル検査にて測定,算出した肺体血流比(Qp/Qs),肺動脈圧,肺血管抵抗,右室容積,左室拡張末期圧,左室容積のパラメータとの関係を検討した.対象月齢は90.7±7.5カ月(平均±標準誤差),Qp/Qsは2.3±0.1で,血中HANP 46.0±4.8pg/ml,BNPは21.8±2.8pg/mlであった.HANPはQp/Qsと有意な正相関を認めた(p < 0.01).さらに肺動脈圧,右室容積とも有意な相関を認め(p = 0.029,p < 0.01),また年齢と有意に逆相関を認めた(p < 0.01).BNPはQp/Qs,肺動脈圧と正相関する傾向を認めた(p = 0.054,p = 0.053).多変量解析において,HANPはQp/Qsおよび年齢と,BNPはQp/Qsと相関を認めた.【結論】ASDにおけるHANP・BNPの増加は上大静脈,下大静脈から肺動脈に至る間で起こっており,右心房・右心室に対する負荷を反映し分泌されていることが推察された.また,ASD患者におけるHANP・BNP値はQp/Qsと相関し,それらの血中濃度は,患者の臨床的状態を把握できる有用なマーカの一つと考えられた.

閉じる