P-II-F-16
アントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬の心筋毒性に関して
名古屋大学大学院発育加齢医学講座小児科学
沼口 敦,大橋直樹,工藤寿子,小島勢二

【背景】悪性腫瘍に対して,アントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬(以下ATC)が頻用される.ATCには心筋毒性が指摘されているため,安全域を考慮して策定された治療プロトコールに即して使用される.しかしながら,その安全性についてはまだ十分に評価されていない.【目的】安全量のATCが心筋障害を惹起するかを調査すること.【対象・方法】当院にてATCで化学療法を行った悪性疾患患児のうち,経時的に心エコーにて心筋の評価を行った 7 例(男:女 = 4:3).原疾患は,急性骨髄性白血病(AML)5 例(うち 1 例はダウン症候群に,1 例はモザイク型ダウン症候群に合併),肝芽腫 1 例,乳児急性リンパ性白血病(後にAMLに転化)1 例.それぞれ化学療法 1 クールごとに心エコーを行い評価を行った.【結果】7 例中 3 例で第 1 回のATC使用後に,3 例で第 2 回のATC使用後に心筋の菲薄化を認めた(< -2S.D.).そのうち骨髄移植を行った 2 例では移植後に心筋の厚さは基準値に服した.1 例は,加療中に抗悪性腫瘍薬の副作用と思われる膵炎を合併したため治療を中断した.中断後 2 カ月で心筋の肥厚(> 2S.D.)が出現し拡張能障害を認めたが,8 カ月時にはいずれも基準値に復した.3 例は化学療法の維持中であり,経過観察中である.すべての例でLVEFやVcfcなど収縮能を反映するパラメータは基準値内であった.また,ダウン症候群のプロトコールで化学療法を行った症例では,全経過を通して心筋性状や機能の変化を認めなかった.【考察】安全域とされるATCの使用量でも症例によって心筋障害が起こりうるが,この変化は一過性であると考えられた.また,全症例で心筋の菲薄化が見られることから,ATCの心筋障害に際して,収縮能の低下に先立つ拡張能の低下は,心筋の肥厚に由来するものではないと推察された.今後,ストレスエコー等より詳細な機能評価や,組織性状の評価が必要である.

閉じる